リア・ダームベルク
百年老いたパルステナは、僅かながらに頭を悩ませる。
体が老いれば、自然と魔力操作能力も劣化―――これを防ぐ為に魔王という存在自体に与えられた特性である復活を利用して老いを防いでいたものの、こうして自死するわけにはいかないタイミング、若い体で復活するには後が遅過ぎるタイミングで強制的に老いさせられてしまうと、パルステナとしても見逃すわけにもいかない不利益を被る。
「五色、曲解、水晶の星―――五里の軌跡を窄めて鏡花」
「産魔兵―――紙魔竜」
「古代詠唱―――歪む仇花」
対象周囲の空間を歪め、空間によって対象を圧壊させる魔法。
それをマリー自身は詠唱途中に空間転移の魔法で回避して、元居た場所には紙魔竜を残す。
紙で作られた体はクシャクシャに歪み、元々あった質量以下の、球となった。
「………………見えた」
「見えた…………? まさか勝機が見えたとでもほざくか?」
「そうかもね………………戦場織りなす三千世界」
それは、パルステナの使う空間を歪める魔法の名。
パルステナの扱う、サレンと同じ魔法発動までの時間効率を最高化する零によって呼ぶ必要を無くされていた名が、数千年ぶりにマリーの口より放たれた。
それは即ち、全知全能への適応―――紙が歪む様を見て、マリーの認知上でその魔法の形を見た事による、戦場織りなす三千世界使用可能化を意味していた。
「吾れの魔法を、猪口才な…………!」
「貴方の方こそ、ご自分が負ける機を見たんじゃなくて?」
戦場織りなす三千世界の使用によって、パルステナの歪めた空間をマリーが修正可能に。
自身でダメージを与える事は叶わずとも、出来る限り敵の手を潰す。
それが今回、サポートに徹すると誓ったマリーの決定。
そして事実、パルステナにとっては最悪の展開であった。
「あとは、貴方だけよ…………全く、子守は面倒ね」
未だ意識混迷としているガレッジへと言葉を―――ただ独り言として放った言葉は、届かなくても良い。
ただ願うは、早く起きてその剣を振るう事のみ。
今この場でパルステナを倒せる可能性が最も高い人物は、ガレッジに他ならないのだから。
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泉の精霊、リア―――元の名を、リア・ダームベルクという。
彼女は産まれついでの精霊ではない―――千年も前、彼女は地上で普通に生きる事を望むただの少女であった。
それが何故精霊になったのかを知る者は、リア自身とラジェリスを除き、他に居ない。
「ガレッジ、目を覚ましてくださいガレッジ…………」
「おいアンタ、そいつ無しでの戦闘は可能か?」
「結論から言います、不可能です…………精霊と人間の契約は、相互の命を結ぶ行為。ガレッジは私の協力意識が無いと私の力が使えないし、私もガレッジの意識無しでは私自身の力を使えない」
「面倒な話で…………俺達だけで十分は稼ぐ。それまでにその馬鹿弟子起こせ」
言うと、アリスはパルステナの元へと駆けていく。
マリーがある程度一人で抑えてるとはいえ、流石に長時間ともなれば体力の消耗も激しい。
それを少しでも軽減させるのに最も必要なものは人手だと分かりきっているからだ。
「十分………………ガレッジ、許してね」
明確な時間制限がついた事によって、リアは一つ覚悟を決める。
今から取る手はガレッジの脳を破壊しかねない危険な手段―――だが、もし成功すればガレッジは、今以上の力を手に入れて目を覚ますであろう手段でもある。
リアはガレッジに口付けを―――舌を口内へ挿入すると、そこから水である自身の体を流し込み、十五秒で完全に体内へと侵入を果たした。
足の爪先から、頭のてっぺんまでを共有―――二人は名実共に一つとなり、混ざり合う。
一時的には体だけでなく、意思までも―――そして、記憶までもが混じり合う。
千年前、精霊になる前のリアの記憶までもが。
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