逆巻く
勇者以外がパルステナに傷を付けることは、結論から言ってしまえば可能である。
パルステナの傷の無効というのは、自身の魔力を体に喰わせて行なわれるもよ―――故に、その魔力を尽きさせてしまうか、神剣ハーリットの様な魔力そのものを無力化させてしまう方法さえ用意出来れば良いのだ。
勇者の聖剣の力でパルステナを斬る原理もそれと何ら変わりなく、溢れ出す膨大な神聖力にて魔力の全てを焼き切っているだけ。
要は、魔力さえなんとか出来るならば後は自力での勝負が可能である。
最後に立ち塞がる魔王として君臨し続けたパルステナの自力に勝る実力があるならば、勝ち筋も見えて来る。
「五線譜準え天井揃え、天馬駆け切る筋道並ぶ―――吾れは望む、世の曲解を。王たる吾れが指し示す、三千世界の曲解を」
精霊術とはまた違う、自身の魔力を媒介とした詠唱式魔法。
言葉に籠る魔力を引き出す事で、無詠唱の郁数倍もある威力を発揮する事が出来る。
「古代詠唱―――手織りの楽団」
「デカいの来るぞ、総員警戒!」
アリスが叫ぶと同時、地面が歪み砕けた。
空間は下方へと歪ませられ、足場に立とうと落ち続ける状態へと。
「…………新惑星」
マリーが外郭無しでの結界を展開。
作り出されたのは結界内部という空間のみ―――パルステナに曲げられない、マリーによるマリーのためのマリーだけの空間が出来上がった。
「聖剣解放ッ!」
その声と共に、パルステナによって曲げられた空間も、それに被せて作られたマリーの空間も切り裂き突撃する者が一人。
輝く刃を後方に構え、いつでも振り上げれるように宙を駆ける。
「先の一撃、奇跡と知れ―――吾れがこの戦いで、これ以上の傷を負うことは決してありはしない」
「無理な目標は持たない方がいい…………!」
パルステナの言葉は、ハッタリなどではない。
この戦いに於いて、パルステナが今以上に傷を負う可能性は限りなく低い―――それはやはり傷無効という絶対条件と、あまりに未熟なガレッジの実力あってのもの。
それらを冷静に判断したパルステナは、確かな確信を持って今の発言に至ったのだ。
縦横無尽―――リアの水によるサポートを利用した動きで回避をしながら自分の攻撃を挟む隙を探すガレッジだが、今の彼には勝利への道筋が見えていない。
現役聖七冠の二位と元七位、元一位を仲間につけてなおだ。
ガレッジだけではない―――マリーも、セリシアも、一度パルステナの討伐経験のあるアリスでさえ、今回の勝利は見えていない。
「俺が隙を作る…………お前が仕留めろ」
「はい…………!」
二人師弟の剣士が並び駆け出す。
アリスが一歩先を行き、パルステナの放つ攻撃網を掻い潜りながら距離を積める。
ダメージこそ与えられなくとも、四肢の一つでも斬り飛ばせば断面同士がくっつくまでの動きを鈍くする程度は可能。
そして、その一瞬を仕留め切れない程ナワな弟子を育てた覚えは無いと、アリスは自負しているのだ。
「もう一度、お前の死に顔拝んでやるよ」
「老いた貴様がか?」
「だから、熟成したんだっつうの!」
まず狙ったのは頭。
脳震盪を目指して思いっきり振り抜いた木刀は、既に歪められていた空間によって砕かれ。
次の瞬間放った拳の突きも、木刀と同じように砕かれた。
「汚り聖域…………!」
「てなわけで続行っ!」
破壊と同時に再生された拳で、パルステナの腹を打つ。
ダメージは変わらず皆無だが、衝撃で体勢を崩す事は可能。
拳が砕かれる激痛に耐えてなおその衝撃は弱まる事なく
パルステナの体を浮かせることに成功した。
「いけるな?」
「聖剣解放!」
ガレッジの剣が黄金に輝く―――初撃よりも速く、重く、剣を振るう。
魔王を殺しうる一撃を放つべく。
だが、攻撃の当たる瞬間ガレッジは違和感を抱く。
魔王が態々持ち出した剣が、ただ魔法のサポートなわけがない。
魔法の合間、挟まれるだけの存在なわけがない――――――その違和感は、直ぐに解消される事となる。
「起これ―――逆巻」
「下がれガレッジッ!!!」
「神樹兵…………!」
それは、過去アリスの前世期には秘匿されていた力。
魔障剣、逆巻―――その能力は、刃が過去一度存在した場所に防御不可の斬撃を作り出す。
例えば今回は、ガレッジの胴と重なった位置に。
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