巨神
大地の終章―――それは、自身の命全てを精霊に差し出す事によって奇跡を起こす精霊術。
巨神召喚―――その奇跡は、魔人属する蹂躙する無限の暴力として、敵戦力を破壊し始める。
「大地…………精霊信仰の根深き龍神族の中でも、最古とされる大地の精霊。その力は万全に発揮されれば、今代の勇者が契約する泉の精霊リアに匹敵する…………か」
ゾラが呟く―――リアと云えば、精霊に詳しい者ならば誰でも知っている精霊に於ける代表の様なもの。
それに匹敵となれば、最大級の警戒を払うのも当然。
それどころか、前持った対策がない事を悔いて然るべき事態だ。
「我が全霊を持って勝るかどうか………………さて、試すとしよう」
瞬間、鎧がゾラの身より剥がれ落ちる。
内に着ていたのはエルフ族に伝わる儀礼服―――女王サレンの産まれた森に生える葉を染料として彩られた緑を基調としたその衣装には、その地に降り注ぐ魔力の一切を分解するバグアイテムの鎧と同等かそれ以上の魔力が込められていた。
「魔眼解放―――根源解放―――軌跡解放―――魔力解放―――刻下解放―――前途創造」
魔眼解放―――ゾラの瞳に生まれつき宿る千里眼の真の力を解放。
素の性能は千里先を見通す視力を手に入れるというものだが、その力を解放すれば、障害物を見通す事も可能に。
それを利用して、巨神の力の核を発見する。
根源解放―――星別つ断界の牙の根源に宿る星を断つ程の魔力放出を一撃に込める用意。
過去に二度この力が発動された際は、その両方で文明焼却が行われている。
軌跡解放―――これまでの歴史で星別つ断界の牙が受けた力を一撃に込めて放つ。
受けた攻撃の性質はそのまま保持されており、一撃の中に込められた性質の多様性は随一である。
魔力解放―――魔力操作にて、対外に溜め続けた魔力を攻撃へと転用可能に。
エルフの長寿の内、数千年と貯蓄された力は、一時的にとは云え無限の魔力使用が可能なマリーに並ぶ。
刻下解放―――魔力解放によって手にした莫大な魔力と、今残っている魔力の全てを重力魔法と身体強化に使用し、星別つ断界の牙の一撃に重ねる用意。
前途創造―――これより先、百年間で使用できる筈の魔力を前借りして今使用。
暫くの無力を代償とした今一瞬を生きる力である。
「巨神よ、受けて立とう―――我が名はゾラ・メノスティア。誇り高き魔王パルステナの家臣であり、忠臣であり、その身を憂い、仇なす者を誅する刃」
掲げた刃より、魔力の放出が始まった―――その力は世の摂理を歪め、空間にヒビを入れて黒い亀裂を空に浮かべ。
雲を割り、空に一筋の道筋を作り出した。
「喰らうが良い…………! これより放たれるは我が生涯を投ずる絶対破壊の一撃! 大地であれ何であれ、砕かぬものは無いと知れ!」
叫び、星別つ断界の牙を振るう。
喉を震わせ雄叫びを上げ、その力が巨神の掌へと触れた。
一切の抵抗無く、巨神の掌がゾラを押し潰す。
僅かな傷も造らず、事なさげに虫でも叩く様に。
巨神の暴虐は、まだ終わることなく振るわれる―――魔族を蹂躙して、飽くまで。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「感じるかい? 君の愛する女の子が戦う余波を」
空中要塞花園にて、男が秋臥へと語りかける。
男の腰には神剣ハーリットが―――これ以上の身分証明書はない。
現剣聖、ルーク・セクトプリム。
他でもない彼が、戦場よりも優先してこの地を訪れたのには意味がある。
「ドラグさんが巨神となったからにはここも安全とは限らない―――そろそろ、起きる時間じゃないかな」
地上で暴れる巨神の腕は、空中要塞花園に充分届きうる。
警戒していれば空中要塞花園が破壊された後の自由落下などいくらでも対処の方法があるが、無意識下では別。
何の抵抗もなく、地面に叩きつけられるだけであろう。
「少し手伝ってあげよう」
言うと、微かに微笑む―――彼はこの地に、戦力を解放しに来た。
或いは自身に並ぶ戦力を、眠らせておくには勿体無いと。
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