大地の献身
久しぶりにインプットの時間を楽しみました。
人生何とかなりそうです。
「派手に始まった―――これは、良い増援が来た様だッ!」
言いながら、ドラグはゾラを殴り飛ばす―――以前の戦い、ゾラと戦ったのはマリーとベネティクト。
現クロニクルの戦力トップ二を費やしたと言っても過言ではないであろう。
それをドラグは一人で押さえ込み、事もあろうか圧倒している。
聖七冠の中では最弱のドラグがだ。
「結構な怪力を持つ様だが、精々フェンディル殿以下―――そして、我以外ァ!」
「驕るな…………!」
叫びながら、振るわれた刃を拳で止める。
星別つ断界の牙の脅威は無制限の間合いと、それにより生まれる悪魔的な遠心の攻撃範囲と先端速度。
だが、それも剣の根本を止めてしまえば意味は無し。
背後に居る冒険者や騎士に対してその猛威を振るう事なく、牙を抜かれた獣の様に無力化されてしまう。
「しかと見よ―――大地ッ!」
一歩、力を込めてドラグが大地を踏む。
するとゾラ周囲の地面が揺らぎ、砕け―――次第に形を整えて、ゾラを覆うドームとなった。
「過負重力」
「追加の〜〜〜大地ッ!」
重力でドームを破壊して出て来たところに、大地を変形させた搥を打ち込む。
それ自体は星別つ断界の牙の一撃で破壊されるが、崩落する遮蔽物の影に潜みながら突撃したドラグが拳を保って一撃。
だが、それ自体も鎧によって大きなダメージとはならない。
互いに攻撃力が足りず、相手に決定打を与えられない状況―――それは、史上最高規模の泥試合と呼んで差し支えないものであった。
「悪いが、我の土俵に付き合ってもらうぞッ!」
大きく距離を離す事なく接近戦を開始。
ぶつかり合うものは拳と剣な筈だが、響く音は金属同士のソレ。
相性もあって拮抗しあった二人の戦いがこのままでは長引くと、ゾラは一つ賭けに出ることとした。
敢えての大振り―――何の工夫もなく、全力を込めた剣の振り下ろしを行ったのだ。
ここまでの戦い方とは様子が違うと、ドラグは両腕をクロスさせて防御の構えを―――腕同士が交わる位置で刃をピタリと止め、弾き飛ばそうと力を込めた。
その瞬間一言ゾラが呟いたのだ―――「過負重力・直点」とだけ。
「ぬわあッ!!!」
「砕けたな…………!」
星別つ断界の牙の刃にワンポイントで過負重力を当てることにより、一撃の威力を倍以上に高めた。
これにより、強固であったドラグ腕の護りは打開。
ゾラに、勝利の兆しが芽生えた。
「大地………………おのれ、剣に重力を被せるとは考えよったな…………!」
「今度はこちらから攻めさせて貰おうか」
鱗の砕けた腕に岩を纏わせ、籠手と化す―――鱗の耐久力には遥かに劣るが、無いよりはマシというレベルの対処だ。
ここからゾラの攻撃が加速する。
ドラグは大地にて攻撃防御を行うが、星別つ断界の牙によって生まれる周囲への被害を配慮すれば、選べる手も少なく。
事によっては、防御で押さえきれない攻撃を自身の身で受ける場面も現れ始めた。
未だ致命的な深手こそ無いが、体の表面には浅い傷が見え、流血も所々。
僅か前までとは真逆の、劣勢へと陥ってしまっている。
「惜しむべくは、貴様が戦士に徹する事の出来なかった事―――所詮二つ名の通り、守護者に徹するのが限界か」
不意に、ゾラが言った。
何の意味もないタイミングでの発言とは考え難く、瞬時に視界を巡らせるドラグ―――その目に映ったのは、溢れんばかりの戦力。
魔法での遠距離攻撃に徹していた筈の魔族達が、とうとう動き出したのだ。
「どうだろう、ここは一つ足手纏いを捨て、この我を殺す為だけに戦ってみると云うのは―――それならば、ここからでも虐殺ではなく戦いとなるであろう」
「我は守護者である…………それは、恥でも縛りでもなく、誇り…………! それが所以してこの戦いに敗北するなど、決してありはしない………………!」
「そうか、では惨めに死ね―――そして天より見ていろ、貴様では、何も護れぬという事をな」
「いや、そうでもない」
魔族達で溢れる光景に、つい足を止めたドラグの首筋に刃を当てるゾラ。
だが、ドラグはそこから動く様子無し―――寧ろ、覚悟のついた様な表情を見せている。
「――――――我は、大地である」
「貴様………………!」
瞬間ゾラはドラグより距離を取る。
地面が蠢き、ドラグを包み込み天へと持ち上げると、次々にその身を覆う様に祭壇の形を形成した。
「血に塗れ知を納め痴に溺れ地を慣らし―――空を睨み全てに踏まれ、万象を支え一となる」
ドラグの扱う大地は魔法ではなく、精霊術―――己の魔力を供物として捧げる事により、その力を振るっている。
精霊術の力は供物の質に比例する―――下限を見れば金銭であり、それなりに良いものを用意すれば寿命であろう。
だが、それは一切を凌駕する単純にて最強の供物が存在する―――誰でも知っていて、誰でも持っている命。
それが精霊術において、最も高いとされている供物だ。
「私は願う、種の存続を―――私は乞う、世の安寧を―――私は祈る、人の安息を―――私は求める、ただ、勝利を」
ただの命ならば、最上とはいえ効力はたかが知れる―――だが、此度捧げられるは聖七冠、守護者ドラグの命。
こと防御に於いて、世を統べた男の命である。
「大地よ、栄光の勝利を授けたまえ! 我が命を捧げるッ!」
高らかに叫ぶ―――地上で何かを言うゾラの言葉は届かない。
ドラグはただ願う―――この身が崩し後、残る世界には賑やかさが残る事を。
人々が笑い、泣き、苦悩し、日々を生きる世界が残る事を。
「精霊祭壇術式―――大地の終章ァ!!!」
断末魔を上げるなどという真似はしない―――ただ、人々に見せ続ける、世を護る己の姿を。
安心の為に、安全の為に、安寧の為に、命を賭す己の姿を見せ続けた。
彼の勇姿は後にこう語られる―――『その身を盾として戦う彼の勇姿は揺るぎなく、大地が如し御姿であった』と。
フルゲシュタインの膝下にて、守護者ドラグ死す。
そして、それから四十七分二十八秒の間――地上に―虚像の神が舞い降りる。
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