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商談

作者の名前が「眠気」から「蛙の子は振り返る」に変更となりました。

特に何があるわけでもありませんが、変わりました。

「トラオム……? 知ってるも何もねぇだろうよ」



 情報収集の為とラクラスに尋ねると、まるで知っていて当然と言った様子―――それに二人は眉を顰める。



「トラオムってのは国教。ガキでも知ってらあ―――逆に、お前らはなんで知らねえんだって話だよ」


「そうですか…………僕達実は閉鎖的な村で育ちましてね、少し外に鈍いんですよ」


「ああ、通りで―――秋臥やら香菜やら、こっちには居ねえ名前で東の方とは思っちゃいたが納得だ。向こうは独特だからなァ。しかし突然、トラオムになんかあったか?」


「いえ、昨日初めて聞いた名だったものですから、何なのだろうなと思いまして」



 秋臥達の知っているトラオムとは随分と違った様子―――顔には出さずとも二人とも混乱している。


 ひとまず話を終わらせると、今日やって来た本題へ―――夜の内に共有した情報を持って、商談へと挑む。



「では、折角お時間頂いたのでね―――本題に入りましょうか」


 表面を伏せて、香菜が手に入れたリストをテーブルへと乗せる。

 最初に切るカードはこれだ。



「これは何だ?」


「犯罪者集団の潜伏地リストです―――もしこちらの提示する条件を飲んで頂ければ、無償で差し上げましょう」


「条件なぁ…………聞くだけ聞くが、今この領地に大した金なんぞねえぞ」


「ええ、だから無償と言ったでしょう―――まず、このリストの情報を使っての投入の際は僕に一声。戦力として不足は無い筈です」



 事実不足は無い―――だが、秋臥の身分は未だ不確か。

 ラクラスとて領地奪還の恩があるとは言え、未だ無条件で信頼するには心細い。

 それを危険な戦地に連れて行くのは、充分な危険性を孕み、対価になり得るデメリットだ。



「次に、その突入で得た金銭の三割をいただきたい。こちらは場合によって下げる事も可能です」



 それを聞いて、ラクラスは悩む素振り―――賊から取った金品は原則として、国に二割と領主が八割。

 冒険者や一般人の功績となればまた話は変わるが、貴族指揮の元の功績ならばこれが決まりだ。

 その中から更に二割、領主の手取りは六割となる。


 家を建て直し、領地を立て直し、ゴルシアの側についた兵を解雇して新たな兵を募り、金は幾らあっても足りない。


 少なくなれど多少得るべきか、少しの間にそれらを思考に巡らせるラクラスを見ると、秋臥は二つ目のカードを切る。

 こちらは比較的手に取りやすい交渉。

 撒き餌のような物だ。



「この話は今すぐに決めていただかずとも良いです―――今日はもう一つお話がありましてね」



 今朝買った皮紙とペンによって用意した資料。

 元いた世界の文明をこの世界へと持ち込む第一歩。



「僕の元いた場所は閉鎖的と言いましたね―――それ故、独特の文化もありまして。もし外に無い物でしたら共有できないかなとね」


「これは…………確かに見た事ねぇな」



 書いてあるのは掘り炬燵の図式と簡易な説明。

 それと似た物を幾つか。



「これに関しては売り上げの一割でも貰えれば充分です。如何でしょう?」


「…………乗った、両方買ってやるッ!」


「両方と言うと、こちらのリストもで?」


「ああ、この二つがあれば財源としちゃあ充分だ」



 快く、秋臥の用意した手段の二つを飲み込んだラクラス。

 これには交渉する秋臥の横、座していた香菜も静かに微笑んだ。



「では、よろしくお願いします―――この仕事の成功を祈ってますよ」


「前から思ってたけど、お前胡散臭ぇな」



 そうは言いながらも二人、握手を交わす。

 恩や義理の関係ではなく、商売の関係が成立した。




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




 商談を終え、宿屋へ帰る。

 そこでラクラスに渡したもの以外の商品を思い出そうと記憶を探った―――二人が求めるのは、あってもなくても良い様な小物ではなく家具などの日常に浸透する物。

 流行りではなく、常々に浸透出来て長期間の儲けを得られる物を求めたのだ。


 その日はいくつかの商品案を上げて終了。

 翌日、秋臥と香菜は街へと繰り出した―――目的としては昼食とトラオムの情報収集。

 そして、トラオムについて詳しく知りたいならという事でラクラスに紹介され、とある人物と出会う為である。


 ラクラス曰く、トラオムは国教―――詳しく聞く限りでは世界中に浸透した宗教であり、元居た世界で言うところの仏教やキリスト教の様な扱いである事が分かった。


 だが、その話だけでは信用できない―――誰が何と言おうと、信用の支柱になれど大黒柱とはならなかった。

 二人の抱えるトラオムとの遺恨は、それ程に根深い。


 昼間でも少し探せば、青十字と銀時計を装備したトラオムの信者は多く見つかった。

 それはおかしな事ではなく、この世界では当然の事―――これに違和感や嫌悪感を抱く秋臥達の方が、ここでは少数派なのだ。



「秋臥、そこの店ではありませんか?」


「そうだね、入ろう」



 二人が到着したのは、いくつかの個室があるレストラン。

 ここ、エルモアース領で最も大きな店である。


 店内のウェイターはソムリエエプロンを身に付けた、元いた世界のレストランと似たような格好。

 生地も街の人々が多くきているような安物ではなく、滑らかで光沢のある高級仕立てだ。



「ご予約の加臥秋臥(かがあきね )様と、巴山香菜(はやまかな)様ですね―――お待ちしておりました」


「少し遅かったですかね?」


「いえそのような事は―――二階の個室にて既にセリシア様がお待ちですので、ご案内いたします」

読んでくださりありがとうございます!

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(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)


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