回収者
「聞いてない、こんなの聞いてないッ!」「雑魚と三年戦うだけで良いって言ったじゃないか!!!」「俺がここの収益に貢献したと―――ッ!」
戦闘開始より三十秒程度―――場は狂乱に満ちていた。
初激、人を豆腐の様に砕くキャスパリーグの一撃を目の当たりにした奴隷達は戦意を失い逃げ惑い。
それを見て観客達は歓喜する。
彼らにとって、奴隷は人ではない―――人と良く似た、何をしても良い玩具。
世間一般で倫理観に削ぐわぬとされる欲求を晴らす程の良い吐口であって、同情などという思いを向ける対象ではないのだ。
「父様っ! 彼だけはよしてと言ったじゃないの!!! アレは私のお気に入りなのっ!!!」
「そうか、それは残念だったな―――だが、私のせいではない。全ては、私を止める力のなかったメノスピュラ、君のせいだ。彼が死ぬのは私のせいでもキャスパリーグのせいでもない、君のせいなんだよ」
足に縋り付くメノスピュラに一瞥もせず、カムラッドは言った。
それは特別な悪意の込められた言葉ではない―――ただ本心を、思ったままに吐き出しただけの事。
ただ、それだけの事なのだ。
「今すぐこれを中止して! 彼だけでも退場させて頂戴っ!」
「それを観客は許さないよ―――良いじゃないか、獣人のガキの一人や二人。それとも何だ? 君があのフィールドに乱入して彼を助け出すか? それなら止めないよ。それはそれで、観客は盛り上がる」
カムラッドの言葉を聞き、メノスピュラは下唇を噛み締める。
このキャスパリーグが野放しにされたフィールドに飛び出した所で、メノスピュラ自身の生存確率は零と断言出来よう物。
彼女は思う―――ここで自分が何も考えずフィールドに飛び込む事が出来る愚か者ならば、どれ程良かったかと。
この自己保身を形作る冷静さを捨てられたならば、どれ程良かったかと。
「フェンデル………………!」
フィールドへ目を向けると、そこには棒立ちでキャスパリーグを眺めるフェンデルの姿。
まるで普段の対人と変わらぬ様子で、常隣り合わせの死を俯瞰して見ている様。
つまり、このコロシアムに居る奴隷の中、彼だけは恐怖に取り憑かれていない。
普段と変わらぬ、万全の状態なのだ。
「…………父様、あのキャスパリーグから逃げ切れる者が居れば、その奴隷はこのコロシアムのヒーローになれる?」
「石像でも建ててやりたくなる偉業だな。だが、ソレをあの少年に期待するのは少々酷というもの――――――」
「逃げ切れるの基準は?」
「人の興味、集中というものは、短くとも四十五分続くらしいぞ」
瞬間、メノスピュラは駆け出す―――その体をかつてない程素早く畝らせて、とある場所を目指す。
それを確認したカムラッドは変わらずフィールドを眺め、奴隷達の蹂躙される姿を眺め。
それを取り囲む観客達を眺める。
このコロシアムのメイン収益である、ギャンブル要素―――普段であればどの奴隷が勝ち残るかを賭けの対象としているが、本日は指定した奴隷が自身の予測時間以上生き残るかどうかが賭けの対象。
最近では強い奴隷が誰かというのが広まり出し、コロシアムの収益が下がり始めていた―――故に、現在在籍している奴隷達に最後に一稼ぎさせようという魂胆である。
観客達は逃げ惑う奴隷達を見て、自身の賭けた者がキャスパリーグに目をつけられるかで一喜一憂。
中では死体の山に潜り事なきを得ようとする者を見て、爆笑してはその情報を皆で共有しあっている。
醜悪に飾られた人の欲望が渦―――それを一人支配する快楽に、カムラッドは溺れているのだ。
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