大地
「外では、戦いが始まりましたか………………」
清潔な部屋の中、香菜が呟く。
目の前には傷こそ治ったものの、未だ目を覚まさぬ秋臥が―――あまりにも静かで、少しでも目を離せば次の瞬間には息が止まってじまいそうなその姿に、香菜はこの場を離れる事が出来ず。
外で始まった戦いへの参加は保留となっている。
「貴方が生きていてくれるのであれば、私はずっとこのままでも構いません―――話せないのは少し寂しいですが、この手の温もりが残るのであれば」
動かぬ手を握ると、習慣付いた無意識の動きで僅かに握り返される。
今後秋臥が一人戦いに赴き、自分の知らぬ所で危険な目に遭う心配が無くなるのであれば―――ただこれだけの温もりを心持ちにして生きる人生も悪くないと、香菜は本気で思っていた。
「ねえ秋臥、私達ずっとこのままで――――――」
「失礼するよ」
それは、あり得る筈の無い来客であった―――両手に魔剣を持ち、貼り付けた様な笑みを浮かべたその男。
この部屋は聖七冠とその他一部の者のみが持つ特殊な鍵でしか入ることは出来ない。
それどころか、限られたものしかこの部屋の存在も知らず、転移魔法ですら魔力察知遮断の結界で座標を決める事が出来ぬ筈なのだ。
にも関わらず、この男は現れた―――イベリスは、どこからともなく現れた。
「エティシアより、彼の殺害許可が出た―――どうやら剥製にする事を決めたらしいよ」
「………………させるとでも?」
「止められるとでも?」
二人が僅かに言葉を交わした次の瞬間―――床が落ちた。
その下にある土台骨組み全てが壊され、空中で自由落下を開始。
秋臥の眠る部屋があった場所は空中要塞花園―――地上に追突するまでの所要時間は、一分も無い。
「糸翼…………!」
「いいだろう、精々足掻いてみるといい!」
先ずは落下を止めるべく背に糸で翼を作成。
その襲撃者を迎え撃つべく、これまで静かに研ぎ続けた刃を行使する時が来た。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
地上にて、悲鳴が上がる―――間合い無用の大剣、星別つ断界の牙。
それを振るうはエルフの女王サレンが嫡男、ゾラ・メノスティア。
強力無比な斬撃と重力魔法によって、この戦場は彼に制圧されかけていた。
「我が力を恐れ、生を渇望せよ、それが主の力となる…………!」
鎧の中でこもった声が戦場に響く。
そして横薙ぎ一閃―――だが、振り切れぬ。
魔力で延長した刃が、何かにつっかえているのだ。
山をも両断する刃が、断てぬ何かがそこにある。
「暴虐はそこまでにしてもらおうッ!」
活発に響いた男の声は、この世の戦士であれば誰もが知る所。
その斬撃を受けてなお無傷の鱗は世界最高硬度を誇り、それを持ってついた二つ名は守護者。
現聖七冠では最古参メンバーであるその男は、食い止めた刃に沿って己の槍を投擲する。
「我が名はドラグ、守護者のドラグだッ! これ以上の蛮行を働こうと言うならば我を、大地を打ち倒してからにするが良いッ!」
「大地を名乗るか、不遜な男よ」
ドラグは魔法で僅かに足元の地面を盛り上がらせ、スタートダッシュの力点に。
快速の第一歩を踏み出して、刃を抑えながら進撃。
間合いにゾラが入った瞬間繰り出した打撃は、ダメージこそ鎧に吸収されるが、ゾラを戦士達より離す事に成功。
星別つ断界の牙による攻撃こそ自身が防げば良いとして、視覚外に放たれる重力魔法の射程に味方が居るのは大きな問題。
なのでゾラの大雑把な魔料操作範囲を割り出し、こうして適切な距離を開いたのだ。
「不遜、驕り、結構ッ! それでも尚、我は大地であるッ!」
充分なスペースはある。
大地に魔力を流し、操り―――巨大な槌を生成。
轟音響かせ、ゾラを襲った。
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