開戦
困惑、驚愕、恐怖、愉悦―――この場に呼び出された者達の中で、そんなものが渦巻いている。
一部冷静な者達は、この土地の力に気づいて何が起きたのかを把握。
転移魔法の使用者を探す為に目を回す。
「諸君、急な招待ですまないね―――余興は楽しんでいただけたかな?」
全員に対して、拡声の魔道具を介したイベリスの声が響く。
余興とは、世界各国同時に行われたトラオム信者による襲撃の事―――注目した視線を受け、薄ら笑いを浮かべながら言葉を続けた。
「僕には夢がある―――この世界を、最初からやり直したいんだ。星々の誕生以前より、神話の時代、僕の様なハイヒューマンがどこにでも居た時代を、最初からね―――だから、君達には犠牲になって貰おうと思うんだ。僕の私利私欲の為に申し訳ないとは思うが、何か大事を成すには犠牲が付き物。許してくれとはいわないが、せめて抵抗を許すよ」
「そうか、ならばそうさせて貰おうか」
瞬間、魔力の塊が風圧となってイベリスに向かい放たれる。
その発信源は聖七冠の堂々たる面子を従え、上空の敵を睨む―――このような展開になる事を知っていたと言わんばかりに支度を整え、物怖じせず、勇敢の二文字が相応しい風貌だ。
「クロニクル総帥、ルーベルト・ドリファスか―――良いだろう。でも、勿論その抵抗は抑え込ませて貰うけどね」
空が割れる―――その奥にはもう一つ、真の空と無数の影が。
ナンバーズと、パルステナ率いる魔族。
「皆んな、任せたよ」
「聖七冠、出動ッ!」
二人の指令が同時に響く―――そして、総力の衝突。
初手として放たれた魔族達の魔法が、全て空中で撃ち落とされる。
聖七冠一位、星墜ベネディクト。
その二つ名に恥じぬ初動の影で、一つの影が飛び出した。
聖七冠四位、拳王フェンデル。
聖七冠三位、冥王メイスの出した鳥型死霊の背に乗り戦士達の団体を抜け出すと、真っ先に狙うは魔王パルステナ。
ある程度の高さで死霊の背から飛ぶと、先ずは何もない場所目掛けて一発腕を振るう。
「………………空間が、乱れたか」
「ずっとテメェと、戦り合って見たかったんだッ!」
「だぁめ」
フェンデルの拳がパルステナに届く直前、背後で艶かしい声が鳴る。
そして、視界が白で埋め尽くされた。
竜よりもきめ細かく、テラテラ輝く鱗―――街一つ囲む様な、大蛇である。
「なんだァ? てめェ…………」
「ナンバーズ、2―――メピュラス。ご存知なくて?」
半人半蛇の、過去秋臥に捕えられた女―――大蛇を召喚してパルステナの盾とし、自身も大蛇に飛び乗ると一部を液状化させ体内に潜り込んだ。
「良いぜ、先ずはテメェからだッ!」
一発蹴り上げ―――あるだけでその戦場を支配しかねない体躯を空中へ打ち上げると、自身もその体に捕まり空中へと飛んで行く。
それを眺めるパルステナの元、死霊の鳥による襲撃。
その鋭い嘴の突撃を、魔法で空間を歪める事によって別方向へと飛ばし。
次の瞬間、零秒で三十発の魔力弾が飛来する。
「届かぬ」
「知らないよ、そんな事」
背後より、完全に魔力を抑えたベネティクトの奇襲。
パルステナの長髪を掴み、地上へと全力の投げ―――地面に叩きつけられたパルステナが起き上がるより先に、人の身程ある大剣が振り下ろされる。
「召喚―――一級死霊、大髑髏者」
「墓守か」
パルステナが軽く空間を歪めると、大髑髏者の体がひしゃげてしまう。
「召喚―――二級死霊、硬直魔導士」
氷結魔法を扱う魔導士の死霊を召喚―――パルステナの半身を凍り付かせたが、次の瞬間には氷と硬直魔導士」共々空間の歪みで破壊された。
「メイス君―――ありがとう」
地上に戻ったベネティクトが、パルステナの額に銃口を突き付けて発砲。
それを察知して、事前に回避行動を取る事でパルステナは無傷を貫き通す。
この場に召喚された戦士の、大半が理解した―――自分達が割って入れる戦いではないと。
されど思う―――これは、それでも割って入らねばならぬ戦いなのだと。
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