立つ鳥跡を濁して
王都襲撃の加勢としてやって来る者が、この程度で死ぬわけがない。
そんな判断に従い、スアレーは魔力探知のセンサー感度を限界まで引き上げる。
骨互裏の髪先が揺れただけでも感知できる状態であるが、しかし僅かな動きも無く。
まさか死んだのかと、確認へと向かうべく一歩―――瞬間、スアレーの分厚い背筋が貫かれた。
「魔力無しの攻撃――――そんな前提を忘れている」
「お前、どうしてこっちに…………ッ!」
「どうして? ああ、君の部下ならまだ残っているよ―――ただ、全滅も時間の問題だがね」
泥垣かスアレーの背に突き立てたナイフを引き抜こうとするが、ビクともせず。
余計な出血を防ぐべく、背筋を全力で固め引き抜きを阻止しているのだ。
「ゴリラか…………!」
「乙女に向かって、失礼だぞッ!」
振り返り、その勢いをしっかりと乗った拳を一撃―――泥垣を二段の衝撃で殴り飛ばし、地上十メートルまで打ち上がった所で、反対の拳を握る。
決して拳の届く距離ではない―――しかし、スアレーならば届く。
「ぶっ飛べッ!」
叫び、全力で空振り。
自身が跳んで殴るわけではなく、打撃の衝撃だけが宙を渡り三度目の衝撃として泥垣を襲う。
三度腹を打たれた泥垣は、即座に傷を治癒させるが衝撃を消滅させる事は出来ない。
空中で体制を整えられず、遥か上空へと飛んでいく。
「――――――ユニコーンの槍」
「動いたなッ!」
泥垣に意識が行った一瞬―――起き上がった骨互裏がユニコーンの角より作られた槍を投擲する。
性行為の経験がある者に当たれば、それがかすり傷であろうと致命傷となる効果を持った槍。
それをスアレーは、素手で捉えた。
槍は回転しながら突き進んでおり、捉えて尚回転の勢いは死なず。
掌表面を削りながら、ゆっくりと停止する。
「その顔と乳で、処女なんですか…………? 選び放題でしょう」
「私は、自分よか強ぇ男にしか興味が無ェんだよッ!!!」
捉えた槍を、投げ返す。
この戦い初めて、骨互裏の額に冷や汗が流れた―――慌て取り出したのは修道女の死体より作り出したベール。
槍の先端を包み、力を下方へと流して軌道変更―――自身へと向く攻撃を地面へと落とし、無傷で攻撃を無力化した。
「この程度、造作も――――――っ?!」
非処女を殺す効果こそないが、槍の回転と縦の衝撃が骨互裏を打つ。
捻れる衝撃によって内臓を掻き回されたことで、骨互裏は嘔吐―――瞳には、より一層の敵意が宿る。
「隊長の赤ちゃん、産めなくなったらどうするんですかッ!!!」
「知らねえよッ!」
側の瓦礫を放り投げ―――紙一重で回避行動を取った骨互裏がマグマガメの爆弾を四つ放り。
爆発と同時に、元の爆弾の五倍近い質量のマグマが流れ出す。
「ガキ産んで人並みの幸せ欲しいなら、戦場なんかに出てくんなッ!!!」
マグマが自身に届くより先、全力で拳を振るう―――衝撃でマグマは飛び散り、スアレーを傷つけず、そんな結果を残してなお死なぬ衝撃が再び骨互裏を打ち。
意識を根より刈り取った。
「どれ、次だ―――高みの見物決め込んで無ェで、降りて殴られに来いよッ!」
「イベリス、私達に言っているのですよ」
「聞く必要は無いよ―――ほら、彼女も限界が近い」
イベリスが言うと同時に、スアレーの口端より血が流れた。
立ち姿もふらついており、今では立っているだけで漸く―――戦えていたのは奇跡だ。
「骨互裏が現れると同時に放たれた喇叭の音と、戦闘のダメージ。まあ限界だろうね」
「成る程、随分と上手い虚勢なことで」
イベリスが転移用の魔剣を出して、地上に向かい振るう。
負傷した骨互裏と泥垣を回収―――そして、転移の穴はもう一箇所に作り出された。
その場所は襲撃により結界の魔力耐性が下がった王城の地下―――この国で最も厳重な、地下牢である。
「この魔力………………お前まさかッ!」
「もう遅い! だが今は喜んでいればいい。君はひとまず、あの城を護ったんだからね」
そう言うと、イベリスとエティシアの体も転移魔法に包まれ始める。
それを見た瞬間―――体に鞭を叩きスアレーは跳び、二人の逃亡を阻止するべく拳を振るった。
「じゃあね、騎士団長スアレー。もう二度と、合わないと思うから元気で」
不本意の空振り―――衝撃をぶつける暇もなく、二人の姿は消え去った。
ボロボロの王都では、生き残ったトラオム信者の咆哮が響き続けている。
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