騎士
「なんなのですか? 彼女は―――貴方の纏めた要注意人物一覧には無かった顔なのですよ」
「注意する必要もない些事、覚える必要もない人物だって事さ」
街で一番大きな時計塔の頂上より、スアレーの戦いを眺めるイベリスとエティシア。
スアレーの派手な戦いぶりに騎士達は士気を高め、更に銀骸を使用した事で戦況は一変。
トラオム信者達の有利は覆された。
しかし、それでも怯む者はいない―――トラオム信者達は皆、交戦開始前と同じ表情で死を恐れずに突撃を繰り返す。
手足がもげれば這って、腹に穴が開けば命続く限り、狂った様に突撃を繰り返すのだ。
「エティシア、宣言からどの程度時間が経った?」
「丁度十分なのですよ」
「なら、仕掛けが発動する頃だ」
イベリスが言うと同時―――街に、咆哮が響く。
その衝撃に街に並んだ民家は砕かれ、栄えた王都の大地は凪となり。
他と比べて強力な防御結界が張られた王城のみが、王都の中心に孤立している。
「魔力での身体強化や、氷の鎧を纏った奴らは残ったみたいだね―――だが、トラオムの一般信者や護られるしか脳のない街の奴らは全滅。ん〜なんとも、心地良い」
「時計塔は残すと言っていませんでしたか?」
「いいじゃないか、細かい事は」
足場を失った二人は、それぞれ己の力や魔剣の能力で浮遊。
そして、新たに迫る影へと目を向けた。
「終端の竜、ゾディアック―――狩るのには苦労したよ」
「強く産みすぎだのですよ、全ては雛姫のせいです」
ゾディアックの牙より作られた喇叭の魔道具、を吹く骨互裏。
ワイバーンの群れを引き連れ、その先頭に乗って居る。
「オーナーじゃないですか、なんで飛んでるんですか?」
「貴女、自分が何を壊しながら登場したか覚えていない様ですね」
「ああ! 失敬失敬、次からは気をつけますよ」
「次があるなら、この作戦は失敗して居るのですよ」
骨互裏が王城に目を向ける―――しかし、その視界はベージュに塗りつぶされた。
地上から一っ飛びしたスアレーの拳が、顔面に当たり振り抜かれたのだ。
「よお、襲撃者ッ!」
「隊長に見せる顔に、傷が付きましたよ…………!」
喇叭をクッションにして打撃の勢いを抑えはしたが、それでも地上へと打ち落とされた。
喇叭は壊れたものの、一瞬で追いついて来たスアレーに対してナイフを三本投擲。
素材は魔物、スモーキンバットである。
「この程度ッ!」
「でしょうね」
万死の彫刻―――生物の骸を己の武器に作り変える魔法。
投げたナイフをスアレーが腕で弾こうとした瞬間、煙に変化。
実態を失い煙に巻き、目を覆い隠す様に纏わりつく。
瞬間―――喇叭の一撃により崩壊した街に一瞬目を向け。
瓦礫に呑まれ、瀕死の少女を発見して飛び寄る。
「お姉ちゃん、助けて…………!」
「はい、いいですよ」
言いながら、少女の首にナイフを突き立て。
即死したと同時に、その死体を戦斧へと作り変える。
「いっせーのっ!」
纏わりつく煙を払ったスアレーの目に映ったのは、身の丈程ある戦斧を振り上げる骨互裏の姿。
魔力を纏った腕をクロスさせて最速の防御を用意するが、不足―――戦斧は命には届かずも、スアレーの右目と両腕の皮膚を切り裂いて振り抜かれた。
「顔、お返しです」
「知らねえのか、向かい傷は騎士の誉れだッ!」
防御に回していた腕を勢い良く開放し、風圧で骨互裏の体制を崩した所で腹目掛け一撃。
伝播の魔法による衝撃と、拳の直撃による衝撃の二つが連続して打ち込まれた。
「――――――スイショウガメの鏡」
「………………ッ!!!」
反射―――腹に仕込まれた小さな鏡により、攻撃のダメージはスアレーに帰る。
打撃に使った右腕より血が噴出。
しかし、タダで片腕をくれたやるスアレーではない。
「 これも返せんのか?!」
「は………………?」
拳を腹の鏡より離さず、ゼロ距離で再度力を込める。
衝撃ではなく圧力で鏡を破ろうという魂胆だ。
骨互裏は当然背後に下がって圧力を消そうとするが、それに微塵のズレもなくスアレーもついて行き、圧力をかけ続け。
結果―――下がったせいで踏ん張りが効かず、鏡が破れた瞬間に骨互裏は殴り飛ばされた。
「鏡なんか破れるに決まってんじゃねえか、バカじゃねえの?」
さも当然の事をしたかの様に呟くスアレー。
その姿はまるで物語に登場する理想の騎士そのもので、僅かな揺らぎもなく胸を張っていた。
腰痛、何とか治りました!
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




