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花咲く

 シンクロニシティと呼ぶにはあまりにも人為的に過ぎる―――世界各地、クロニクル所属国の王都にて街を埋め尽くさんばかりの列が組まれていた。


 白いマントに青十字―――腰には全員銀時計を装着した集団。

 世界的宗教、トラオム信者の証に違いない。



「御告げは下された―――()っする敵はクロニクル。世界の敵を我ら一丸となりて砕き、救世を行わん」



 その言葉を、隊列を組んだトラオム信者全員が一息のズレもなく放った。


 銀時計とは反対の腰に装備した十字のアーミーソードを一斉に引き抜くと、一丸となり包囲した各国王城へと目を向ける。


 軍靴が地を叩き、侵攻を開始―――各国兵が対応するものの、兵の中からもトラオム信者は寝返っており。

 兵力の差は歴然である。



「なんだァ? 白い奴らが集まって、ここは雪祭り会場かなんかだったか?」



 サレスティア、王城正門―――女の威勢良い声が響く。

 その騎士は騎士らしくなく、ナックルダスターを指に嵌め、固めた拳に息を吹きかけた。

 普段の露出が多い運動着とは違ってその巨大な胸は分厚い鎧で閉ざされており、口調に似合わずこの緊急事態に対して真剣に立ち会っていることが察せられる。



「怪力姫………………貴女の情報は、既に手の内だ」


「なんだァ? てめェ…………」


「トラオム司教、泥垣(どろがき)蒼水(そうすい )。死ぬんだ、覚えなくて良い」


「そうか、安心しろ―――その名、しっかり墓跡に刻んでやるッ!」



 叫ぶと、大きく拳を振う。


 攻撃対象である泥垣は間合いの遥か外。

 しかし、飛んだ―――泥垣だけではなく、その背後に並ぶトラオム信者百人以上も一緒に殴り飛ばされた。



「次は(アタシ)が名乗る番だな―――銀華の騎士団団長スアレー・ジェムエル、よろしくッ!」



 死没したベディヴィア・ハーシュマインの後を継ぎ、銀華の騎士団団長へと就任。

 胆力を見ればそこいらの冒険者を魔力強化無しで凌ぎ、本人が冒険者になれば冠級も夢ではないと言われる豪傑である。


 彼女の一撃により飛んだ信者達は、体の前面が大きく潰れて戦闘続行不可能だ―――ただ、一人を除いては。



「前団長とは違った、豪快な戦闘スタイル。ここまでは情報通りだ」


「情報があったら死なねえのか、あァ?!」



 無傷のまま、倒れた状態より起き上がった泥垣。

 服を見れば血みどろ、肌にもしっかりと血痕が残っているが、体はやはり無傷―――スアレーは回復魔法とスペシャリスト相手だと認識して、改めて襲いかかって来る泥垣相手に再度拳を振るう。


 一撃―――拳の到達前に現れた衝撃は、魔力強化を施した泥垣の両腕に防がれる。

 二撃―――続いて当然ながら襲来した拳自体が打つかる衝撃は防ぎきれず、泥垣の両腕は粉砕され、一秒未満で即完治する。


 僅かな間も開けず、(しな)る腕でスアレーに打撃を仕掛けた泥垣。

 左腕が基本的な攻撃、右手はスアレーの攻撃に成る備えを叩き落とす牽制と、渾身の一撃を放つ備え。

 泥垣の得意な、少しずつ相手の余力を削る戦法だ。


 しかしその様な小細工を全て砕く一撃をスアレーは持っている。

 拳ではない―――一度強く、地面を踏んだ。

 瞬間、初激の拳以上に大きな衝撃が広がり、泥垣含めたトラオム信者達を再び弾き飛ばし。


 それと同時―――城へと繋がる道を開く様に、飛び上がった。



「ここは拳骨を一つ、景気良くッ!」



 空振りな筈―――しかし、破裂音が鳴った。

 大気を叩く音ではない、魔力を殴りつけたのだ。


 スアレーの固有魔法、伝播。

 空間に広まった自身の魔力を介して、打撃の衝撃を広範囲に伝播させる。


 分散しようと大砲並みの威力がある打撃を放つ胆力と、その衝撃を敵まで正確に届ける魔力操作能力を必要とする、豪快で繊細な魔法。

 それが今、大地を砕いた―――ただ一撃で、直径一kmの足場が揺らぐ。


 スアレーは銀華の騎士団の歴史上、初めての女団長。

 正式に席を譲っての就任ではなく、元々人望のあったベディヴィアの死没による緊急的な就任というのもあって、その実力を疑う者も多く居た。


 だがもう居ない―――この一撃で証明したのだ。

 自分こそが銀華の騎士団団長であり、男だ女だは関係ない。

 自分こそが、この国を護る最優の騎士なのだと。

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