虚影
許されます様に許されます様に
人差し指と親指だけを突き立てた手を、エティシアに向ける。
紅炎で作り出した矢を射出
エティシアはそれを避けない。
全てその身で受けている―――頭から下には産毛の一本も生えていない清らかな裸体に拳大の穴が増え続け、すぐになかった様に内臓が、骨が、筋肉が、皮膚が再生する。
「無駄に魔力を消費させる必要はないのですよ―――いえ、貴女の場合は消費していませんでしたね。でも、無駄な事には変わりない。私に対しての攻撃というのは、それこそ全ての結果が無駄で終わるのだから」
「紅炎―――火流螺」
エティシアの言葉を耳を貸す事なく、マリーは次の魔法を繰り出す。
炎が螺旋状に流れ渦巻き、大きな鳥の形を形成する。
質量が無いはずの炎による羽ばたきで熱風が生じる。
炎に触れてすらいないにも関わらず、漏れた熱でエティシアの毛髪が先端から燃え、再生を繰り返す。
そんな超常現象の操り手であるマリーは、涼しい顔をして炎の矢を放ち続け、それに沿う様に炎の鳥も発進させた。
「これはこれは」
「傷つけた端から再生する魔物なんて、聖七冠に流される任務では飽きる程相手したわ………………けれどその中には、消し炭も残らない様に焼いた状態から再生するものはいなかった」
変わらず回避せず、エティシアは炎の鳥に呑まれる。
場に満ちる炎が全て消えると、そこにはマリーの思惑通り消し炭すら残っておらず。
たかが神話級の魔物であれば、これで対処は完璧―――しかし、敵は魔物などでは無いことをマリーはよく知っている。
「………………貴女は、どうなのかしらね」
「魔物なんかと一緒にされては、心外なのですよ」
「でしょうね」
僅かな吐息に混じった魔力―――そこから、エティシアの肉体は再生された。
世界の母である女神らしく、子宮から始まり三秒で全身の再生が完了。
完全復活を果たしたエティシアの表情は赤らんでおりどこか蠱惑的―――感情に当て嵌めるならば、欲情していると言って間違いない。
「私が見に纏う魔力防御は全生物の中でも抜きん出たもの―――そこに私のもつ力も加え、並大抵の攻撃では貫通不可能なのですよ。それをこうも易々と」
言葉の途中でエティシアの姿が消えた。
気配、魔力、匂い、音などなど、視覚以外でも存在を知覚する要素の一切が消えたのだ。
そして次の瞬間―――マリーの耳に、ヌメっとした感覚が現れる。
「嬉しくって、下腹部キュンキュンします」
「疾風神雷…………!!!」
「だから、無駄なのですよ」
マリーの背後に現れ、首に腕を回し抱きつきながら耳を舐める。
人より少し長いその舌を耳穴へと挿入する最中、その身を稲妻に貫かれた。
下半身が稲妻に焼かれ消え、即座に再生。
エティシアの言う無駄の言葉は、嘘や誇張では決して無く―――ただそれだけの事実だ。
「私はね、優秀な者が好きなのですよ―――歴史に名を残せた筈の者、世界を一つに出来た筈の者。そんなのを屈服させて、跪き私を求めるだけの馬鹿にする。これ程の快感はないのですよ」
「趣味が悪いのね…………」
「あの光景を知らないから言えるのですよ。貴女みたいな可愛らしい子が、私の吐いた唾を求め床を舐めるあの姿―――思い出すだけで、たまらない」
「………………気色悪いわ」
エティシアが恍惚としている間に、マリーは次の攻撃の支度を済ませた。
一言罵倒を吐いた瞬間、指を鳴らし仕掛けを起動。
無言で海中に仕掛けた氷の陣へと魔力を通して自身とエティシアを含んだ会場六百メートルを凍結。
指の一本も動かせない状態になってから、マリーは転移の魔法で氷の外へと脱出。
手を休めること無く、次の手へと移行。
ここまでの流れで攻撃が本当に無意味なことは理解した。
ならば行うのは、元より予定されていた封印。
対イベリスとして前々より作っていたソレを、エティシアへ向け起動する。
「永久封印術式、虚影」
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