異世界人
「襲撃があったと連絡を受けた―――しかし、初撃以上の被害を出せるところ敵は即離脱。揺動だというのは明らかだ」
クロニクル最上個人収容所、棺。
中に招くは易し、されど生きて出れたものは記録上皆無とされる、砂漠の中心に位置する収容所である。
そんな棺の最下層―――一人の男が、扉の向こうに居る人物へと語りかける。
彼はクロニクル総裁、ルーベルト・ドリファス。
またの名を京極正介―――イベリスと同じハイヒューマンの生き残りであり、秋臥達と同じ異世界人である。
「………………父様から、お前がオレと同じ力持ってると聞いた。世界の王は、一人で良い」
声が聞こえると同時、厚さ三十センチの鋼鉄の扉が蹴破られた。
魔王パルステナの息子、ノエル―――彼はどこか不機嫌そうにルーベルトを眺め、拳を握る。
すると、拳の内側から眩い光が発せられ始め。
その光がノエルの全身を包み込んだ。
「――――――概念武装、狼王」
「それが、報告にあった鎧か」
ノエルの手足に纏わりついた、黒い魔力により形成される鎧。
爪先は獣の爪のように形作られており、目視される範囲以上の間合いを魔力により確保されている。
「報告………………それは、あの鎧が馴染んでいなかった頃の話か?」
「こう様子が変わる所までも、報告通りだな」
棺の最下層、光すら届かぬ闇の園に座り込んでいたルーベルトが立ち上がる。
拳を握り、少し力を込めて調子を確認―――筋繊維の状態、意識から実行までの伝達速度、爪の長さは完璧。
敵を殴るのに、不足ない状態だ。
「相手をしてやろう―――好きにかかってこい」
「このオレを馬鹿にしているな………………後悔させてやる」
以前の戦いでは、顕現しただけでもガレッジと香菜が全力で張った防御を破壊した鎧。
それで今、ルーベルトへと襲いかかる。
魔力の爪を振るい、ルーベルトを三枚に下ろそうと仕掛けたが、その攻撃は届かず―――ただの片腕により、その一撃は食い止められた。
「この若さでこの威力、素晴らしいな―――次は防御だ」
空いた片腕を振るい、ノエルの腹を一撃殴打―――筋肉だけでは無く、骨も太いのだと見て分かる太い腕と拳がノエルの腹へとめり込み、その体を吹き飛ばし。
隕石の直撃であろうと傷のつかない棺の天井を突き破り、ノエルを地上へと打ち上げる。
助走などなく、その場で垂直飛びをして空中のノエルまで追いつくと、首根っこを片手で掴み―――砂漠の大地へと投げ飛ばした。
「胴を貫くつもりで殴ったが、防御力も素晴らしいな。敵でなければ冒険者にとスカウトしていただろう」
「なんだ、この力は………………ッ!」
「純粋な魔力による身体強化だ―――ただ、ハイヒューマンのこの体は魔力との親和性が全種族の中でも飛び抜けて高い。そのため、ただの身体強化であろうと、こうも結果が変わるのだよ」
ノエルの額より冷や汗が流れる―――今放たれた言葉に嘘はない。
目の前の男が纏う魔力には特別な魔法を行使した形跡などなく、ただ身体強化が行われている事だけを証明し続けている。
自身の放った攻撃が様子見程度のものであったとはいえ、こうも易々と防がれる事実が、ノエルにとっては何と恐ろしい事か―――脳裏に、全ての攻撃が無駄となる空想が過ぎるのだ。
「もう終わりか?」
「黙れ………………!」
既に冷静さなど無い。
安い煽りに乗り、直線的な突撃―――両腕振るう最中、顔面を踏まれて攻撃を阻止された。
これ以上無い屈辱が、ノエルの怒りを倍増させる。
顔面を踏まれた状態より、体を回転させて足の側面へと回り込み―――懐に入り込んだところで、一瞬の間もなく連撃を叩き込む。
打撃音と言うよりも破裂音―――しかし、その全てがルーベルトの片手で容易く防がれている。
変わらぬ場面に怒りを更に倍増させ、全力の大振りを放つノエル―――今度は抑えるだけではなく、腕を掴まれた。
投げではなく、叩きつけ。
腕に力を込め、ルーベルトの全力で地面へと叩きつけられた。
「ふんッ!」
狼王を纏っていなければ、魔族であっても骨すら残らぬ。
生き物を地面に叩きつけたとは思えぬ跡だ―――爆心地と呼ぶにも生温いクレーターが出来上がったその地の中心で、二人は五体満足のまま生きていた。
当然ノエルの肉体には大きなダメージが与えられているが、戦闘は十分に続行可能な程度。
足元には、莫大な力の衝突により砂だったものが硝子化して転がっている。
「どうした? 魔族の王子よ―――私に挑むならば、この程度無傷で済ませてもらわねば困るぞ」
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