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光弾

「秋臥君、少し良いかな?」



 皆しっかりと酔いが回り、騒ぎが収まり始めた頃―――殆ど素面な状態の秋臥の元へとベネティクトがやって来た。


 先程まで一緒にいたマリーは、眠ってしまった様子。

 だが、暇を持て余して話し相手を探しにやって来たという訳でもない様で。



「………………外に出ますか?」


「ああ、だと助かるよ」


「なら香菜に一言掛けてきますね」



 言うと、今居た席を離れ部屋の隅でジュースを飲む香菜の元へ。

 こちらの酔っ払い、リーニャもすっかり眠ってしまった様子。

 香菜に膝枕をされて、満足そうに夢を見ている。



「少しベネティクトさんと話して来るよ」


「例の話ですか?」


「多分そう…………隠したつもりなんだけどね」



 それだけ話して、店の外へ―――飲み並店の明かりが続く街道をゆっくりと歩きながら、話を切り出すタイミングを探す。



「あまり遠回りの話はしたくないからね―――早速聞かせてもらうけど、今ルーク君たちはどこに? 君達裏で手組んでるでしょ?」


「やっぱり、気づいてましたか」


「僕以外はまだ気付いてないと思うよ。君の実力はルーク君が推薦するに相応しいものだし、タイミングの新しい戦力が欲しい今となっては喜ばしい―――ルーク君の引退も、聖七冠としての縛りから離れるためと考えれば腑に落ちる」



 ルークとセリシアの冒険者引退は、秋臥が仕込んだもの。

 今後行う戦いに備え、緊急時招集命令のかかる聖七冠という立場は邪魔であったのだ。


 タイミングは吟味した―――そして代わりに、自らが聖七冠になる事で冒険者側の戦力補完と、社会的地位の確保も完璧に済ませた。


 理由付けはこれで良いと思っていたが、それでもベネティクトは気づいた。

 その理由に見当もつかない秋臥の様子を見て、「だが」と前の話から続ける様にベネティクトは話を再開する。



「ルーク君の師匠、アリス―――君と彼の繋がりを知っているのは、現聖七冠で僕だけだ」


「アリスさん…………ああ、あの誘拐で…………!」


「正解。あの日は呑みすぎで足元も覚束なかったけど、あの事件は衝撃的でよく覚えてるよ」



 王都での襲撃後、エルモアース領へ帰ろうとしている秋臥達の元へとやって来たアリスが、馬車の中より秋臥を連れ去った事件。

 あの瞬間出来上がった、秋臥とルークを深く繋ぐアリスというパイプをベネティクトは覚えていたのだ。



「………………ルークさん及び、アリスさんとセレシアさゆは、現在冥国にて待機して貰ってますよ」


「冥国か―――それだったら、サレン様も一緒かな?」


「よく、お分かりで………………」



 サレンとラジェリスの戦いは、神話にも残る程度にはしれた話だ。

 しかし冥国という名を聞いた瞬間、そこを総本山とするラジェリスからの繋がりを導き出したというのに、秋臥は思わず唾を飲んだ。

 そして再認識する―――今回行う戦いに、ベネティクトは必要だと。



「この辺りならいいでしょう―――色々バレてるみたいですし、これ以上包み隠す必要もないみたいですね」



 大きな通りから外れ、じめっとした空気の漂う路地裏へと入った頃に切り出す。

 発案ガレッジの、この世界を揺るがす戦いに参加してくれとの提案―――口に出し伝えるべく一つ息を吸った瞬間、一つの光弾が飛来し、秋臥の身体を上下に打ち砕いた。



「ッ…………ベネティクトさん!!!」



 自身のダメージに何の反応もなく、その一言で退避を促す。

 だが黙ってそれに従うベネティクトではない―――セリシアの魔法が詰まった魔法の封印柱を一本折り、秋臥の致命傷を回復した後に腕を引き共に退避。


 しかし光弾は次々と飛来する―――退避しながら氷の壁を張るも、それを貫通して降り注ぎ。

 着実に攻撃と、逃げる二人との間を潰して行く。



「秋臥君、無事かい…………?」


「今の所は…………! でも、少し不味い」



 そう言う秋臥の左足は、膝より先を欠損していた。

 欠けた足は既に光弾により粉微塵―――ベネティクトから離れ、全力の戦闘や退避は不可能である。



「このまま大通りまで抜ける…………そこで、聖七冠の皆と集まるよ………………!」


「間に合いません! ……………………一息です、一息分の余裕をくれれば、僕がなんとかします!」


「承った……!」



 応えると、加速―――攻撃に移る事を考えから外し、一瞬の猶予を作り出した。

 秋臥が一つ大きく息を吸うと、ベネティクトの手から離れ一瞬の浮遊。

 地面に転がり落ちるまでの一瞬で氷の搥を生成して自身を空中へと打ち上げ―――攻撃様に、新たな魔法を作り出す。



「魔弓、青羽将(あおばしょう )………………ッ!!!」



 氷によって作られた弓矢にありったけの魔力を込め、光弾のやって来る先へと射ち放つ。


 光弾と撃ち落としながら矢は進み―――そこに見えた敵の顔は、見知った人物であった。



「――――――羽々斬(はばきり )、お前っ!」


「さらばだ、隊長」



 矢を落とし、光弾の雨霰が降り注ぐ。


 赤の水滴が路地裏を濡らす―――攻撃の繰り手は、秋臥自身の弟子であった。

読んでくださりありがとうございます!

もし面白いと思ってくださった方は、レビューや感想、ブクマなどもらえると嬉しいです!


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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