一位
即席孤軍要塞―――それは結界術を除いた場合の、マリーが使用し得る最適解とされる防御。
フィールドの半分以上を埋め尽くす城を前に、漸くベネティクトが歩き出す。
その足取りは軽く、散歩にでも赴くが如く。
右手で緩くリボルバー式魔動銃を握り、弾倉に魔力弾を詰めたと同時、マリーの魔法によって再生された英霊シリーズが動き始める。
結界術を纏い、|疾風神雷《マスキュリンライジング 》の中を大行進。
マリーの放つ魔力信号一つで配置に着き、唯一の敵であるベネティクトへと牙を向く。
剣を抜き、槍を構え、盾を掲げ、弓を引き―――一体一体の保有する戦闘力の水準と、その数を考慮したならば。
誇張無しに、一国の軍隊にも劣らない戦力だ。
「こんなおじさん相手に、手加減無しかい?」
「………………必要なの?」
「それを聞かれちゃあ、格好つけるしかないねえ」
――――――次の瞬間、一つの記録が更新された。
正確には次と呼ぶには早過ぎて、瞬間と呼ぶには刹那に過ぎる。
同時と呼ぶには余りにも経過している事象。
起こりと結果の同一化―――因果の合成、世界の曲解。
零秒以内に行われる行動―――その最多記録であるルークの斬撃百七十回を、悠に凌ぐ千八百二十六発の発砲。
その偉業にマリーが気付いたのは、一秒経過後。
壊滅した英霊シリーズを目の当たりにした瞬間、二つの衝撃を受けた。
一つ目はやはり、その手数の凄まじさ。
そして二つ目―――新たな芽に対する気づき。
これだけの発砲を終えて尚、ベネティクトに消耗の様子は無い。
とどのつまり、新たな零に目覚め始めているのだ。
マリー同様、魔力効率の最適化。
魔法行使に於いての、魔力消耗零の領域に片足を踏み込む姿を。
規格外より怪物へと変貌する姿を、目の当たりにしたのだ。
「こういうのを、生まれ変わった気分だって言うんだろうねえ」
「………………この感じ、私の着位祭でルークと戦ったとき以来ね………………」
危機に瀕す―――マリーにとって、聖七冠就任以来皆無とされたシチュエーション。
目を細め、額より冷や汗を一筋流しながら、上がる口角を必死に収める。
振る雷を、全て魔力弾で撃ち落としながら進むベネティクト。
刻一刻と危機が迫る。
雷の雨を抜け、ベネティクトが城の元へと辿り着く。
城壁は紅炎で燃え上がり、如何なる侵入者をも拒んでいる。
「今度は、魔石程度で吸えるような魔力量じゃあ無いわよ」
「勿論、二度も同じ手を使おうなんて考えちゃあいないよ」
銃口を天へと向けて、今日一番の魔力を弾倉へと込める。
零秒などとは比べ物にならない―――見せつけるように放たれた一発は、上空三十メートル付近で破裂した。
その一発に込められた魔力量は、通常の魔力弾三千発に値する。
|疾風神雷《マスキュリンライジング 》と魔力弾が混じり地上に降り注ぐ。
城に傷はつかない―――魔力弾は次々焼かれ、城表面に纏われる炎を一瞬揺らがせるのみ。
だが、その一瞬で良い。
揺らいだ炎の隙間、城を構成する砂にベネティクトの魔力百パーセントで構成された魔力弾が混じる。
マリーの魔力によって形取られていた城は次第に崩れ行く。
そして、両者地に足がついた頃―――もう不要と判断されたか、城に纏われていた紅炎は姿を消していた。
「やれるだけはやってみたが………………ご満足いただけたかい?」
「一位の座に不足無し―――降参よ、ベティー」
その一言で、王冠が渡った―――聖七冠の一位はマリーより、ベネティクトへと渡る。
名目上の最強とされる座が、受け渡された。
フィールドを包む結界が消滅する。
今回の戦闘により発生した痕跡が消滅―――何事もなかったように、まっさら綺麗なフィールドに元通り。
着位祭の幕引きに相応しい―――激戦の終わりである。
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