星墜
閉会式―――新たに加わる秋臥加え、聖七冠が一堂に横並び。
戦いの勝者関係なく、皆その表情を一切隠す事なく観客に姿を晒していた。
「少し、消化不良じゃないかい?」
並ぶ聖七冠の面々のみに聞こえる声でベネティクトが言った。
確かに最終戦、余りにも簡単に決着がつき過ぎたと、皆感じていた―――そのせいか、観客の様子もイマイチ。
何かもう一刺激欲しいと思っていたところであろう。
「秋臥君―――悪いけど、今日の主役を譲ってもらいたい」
「………………ああ、棄権はその為ですか。どうぞ目立ってください」
詳しく聞かずとも、考えている事は分かった。
想像通りの内容であれば、今後の計画にも支障はないであろうと判断したのだ。
「――――――少々お時間拝借したい! メインイベントを切り替えさせてもらうよ!」
閉会式の向上を述べる実況や、それに耳を傾ける観客。
来賓席の重鎮達から、それの護衛に回るルーベルトまでが、その声に不意をつかれた。
フィールドの中心に向かい数歩進むと、ベネティクトは指一本突き立てた手を天へ向かい掲げた。
「最近、年甲斐もなく考える事がある―――一番が欲しいとね」
手を下ろし、指先を一人の人物へと向ける。
それは現聖七冠一位であり、元剣聖ルークに並ぶ異能とされる存在。
対軍での性能を上げるならば歴代最高であろう、顔馴染みの少女を指した。
「下剋上だ―――マリーちゃん、受けてくれるかい?」
「…………やっと、その気になってくれたのねベティー」
面倒臭がりな性格のマリーらしからぬ笑みを見せて応える。
マリーはこの日を待ち侘びていた。
自身が強いと信じているその男が、最強に挑んでくれるこの日を。
自分が誰よりも強く惹かれていたその男が、最強の称号を求めてくれるこの日を。
「私も、譲られた一位じゃ不服だったの…………だから、やりましょう」
他の面子はフィールドから即座に離れた。
フィールドへの結界は既に展開済み―――あとは、当人達が始めるだけだ。
「あんまりにも急だから、観客も実況も困っているわよ」
「まあ、そうだろうねえ…………しかし、現状五位の僕が君にっていうのもあってか些か盛り上がりには欠けるね」
「どうでもいいわ、外野なんて…………もう、勝手に始めてしましょうか」
「それがいい」
周囲の反応など構わない―――二人は勝手にフィールドの隅まで移動すると、互いに息を合わせる。
カウントダウンは要らない。
攻撃こそが、開始の合図だ。
「ずっとこの日を待っていたの―――だから、楽しませて頂戴ね」
「エンジョイしよう…………!」
マリーが一度深く呼吸する。
目を瞑り、これからの時間を噛み締めて―――そして、放った。
「――――――紅炎!」
完全に同じタイミングで、ベネティクトが一発の弾丸を撃ち出す。
それは紅炎に向かい一直線―――そして炎に触れた瞬間、薄く輝いた。
「空の魔石…………!」
「ご明察」
魔力を出し切った魔石は、新たに魔力を吸収しようと辺りの魔力を吸う性質を持っている。
そんなものを弾丸として加工し撃ち出したならば―――それは、剣聖の取り扱う神剣ハーリットの模倣となり得るであろう。
触れた魔法の消滅―――この場合性格には吸収であるが、視覚的にはそう変わらない。
「絶壁…………っ!」
弾丸を防ぐべく厚さ一メートルはあろう土壁を生成。
魔力を含んで作り上げたが、その魔力すらも弾丸に吸われてしまい。
通常の魔力弾ならば表面を僅かに削って終わりであろう所、内部六十センチ部分まで進行を許した。
「魔法で出した物理自体は消せないようね……………なら、攻め方を変えるだけよ」
箒に乗り、天へと飛び上がり。
そして空の彼方に常日頃待機させている、巨大な瓦礫や土砂の集合体へ向かい魔力で指令を送る
「落閻石っ!」
「聖七冠となってから、僕が何と呼ばれているか忘れたのかい………………?」
彼は聖七冠就任以前に、一つの偉業を残した―――規模で言えば、歴史上彼に並ぶ偉人もそういないであろう。
国一つを滅ぼせると言われた隕石を撃ち墜とし、億を超える人命を救った。
故に――――――。
「僕は星墜、ベネティクト・カマンガーだよ」
瞬間―――放たれた七発の魔力弾が落閻石へと着弾し、爆発。
巨大な隕石を、その場から一歩も動く事なく無力化した。
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




