二位
「召喚ッ! 無級死霊、死霊行列ッ!!!」
メイスが叫んだ瞬間、床の黒穴より百を超える死霊達が現れた。
一体一体は三級死霊の髑髏兵よりも劣る実力であり、吹けば飛ぶ程度の雑兵にもならぬものばかり。
だがこの場面で意味のない死霊を呼び出すわけはないと、秋臥は警戒をより一層引き締め。
攻撃に向かうのを辞めて観察の体制へと入った。
「…………慎重になってくれて助かるよ。だが、そこまでだ」
大量の死霊達に杖をつけて言うメイス―――すると、杖の先に死霊達が集合。
死霊としての形を失い、凝縮されたエネルギーの塊と化したソレは床へと転がる。
そして、再度床を突くメイスの杖に砕かれた。
「召喚―――死級死霊、切り裂き道化師ッ!」
「………………何とも大層な」
割れたエネルギーは、再度死霊の形を成す。
細身の体で長い手足を持ち、左右の手が刃の様に変形した燕尾服姿の死霊。
目や鼻、口などの顔を形成する器官の見当たらない顔面には、道化師地味たメイクがあり。
目のラインや笑って見える口周り、涙のマークなど、道化師の名に恥じぬ顔の造りとなっている。
死級死霊、切り裂き道化師―――それはメイスが厳選した罪人の魂を贄とし、死霊としての姿すら殺した末に産まれ落ちる怪物の名。
メイスの切り札であり、世界最強の死霊とされる存在である。
「切り裂き道化師、切り裂くだ」
秋臥に油断はなかった―――今の集中度合いならば、零秒の攻撃が突如として放たれたとしてもカウンターを合わせられる筈だ。
しかし、ソレを見失った―――その死臭を放つ道化師は、まるで相手をコケにする様に消えた。
そして次の瞬間、秋臥の首元に冷たい鉄の当たる感覚。
背後で、ケタケタとふざけた笑い声が響いた。
「……………ッ!」
「発動したからには、もう誰も切り裂き道化師を止められないよ」
刃を振るった頃には、またも切り裂き道化師は消えており。
気づけば周囲には、黒い霧が漂っていた。
「霧に紛れて切り裂くだなんて…………ここはロンドンか?」
「ろんどん……………?」
「こっちの話だ、気にしないでいい」
かつてロンドンを震撼させた殺人鬼―――切り裂きジャックを思わせる手腕である。
そんな敵に適応する様に、秋臥は蒼燕剣を中心で二つに割り軽量化。
一撃の重さでは無く、手数を優先とした。
「無駄だよ―――この状態になれば、切り裂き道化師は誰にも倒せない」
現れては消えてを繰り返す切り裂き道化師に対し、刃を振るう。
だが霞を掴む様な話だ―――刃が届くよりも先に切り裂き道化師は消えてしまい、ひたすらに秋臥の体力を消耗させてしまう。
「知っているかい―――? 現、聖七冠のメンツは歴代最高と言われている事を。その中で三位―――君はよく頑張った」
切り裂き道化師相手に手を緩める事なく戦い続ける秋臥に声をかけた―――ソレはまるで、死刑執行人の言葉。
今際の際に慈悲をかける執行人の様に、優しい口調で言ったのだ。
「君の今日の戦いを、この会場に居る観客達は忘れない―――そして僕も、きっと覚えているよ」
「………………ああ、そうだな」
そう呟くと、秋臥は一度大きく息を吐く。
肺を空にすると、今度は短く息を吸い―――。
「この屈辱を、きっと覚えていてくれ」
―――そして次の瞬間、飛び出した。
切り裂き道化師に構う事なく、放たれた矢の様にメイス目掛け一直線。
だが、その手段に対して何の警戒もしてないメイスではない―――切り裂き道化師の稼いだ時間で、一級死霊兵、大髑髏者が氷を砕いた。
再度動き出した巨大か二人の間に立ちはだかると、零秒先で穿たれる。
疾走状態より跳ね上がった秋臥の蹴り一閃により、頭を蹴り飛ばされたのだ。
「クソッ! 護れ、切り裂き道化師っ!」
「攻略の時間だ」
自分の首筋に添えられた切り裂き道化師の刃に臆する事なく、一秒未満の放置。
その刃が首の薄皮を破り、筋繊維に触れた瞬間、秋臥は半分に割られた蒼燕剣の片割れを振るった。
メイスは切り裂き道化師が討伐される未来を想定していなかった―――そんな事、今までで一度たりともあり得なかったからだ。
自分が聖七冠就任当時の着位祭にて敗北したマリーでさえ、決まり手は初手として放たれた紅炎であり、切り裂き道化師召喚前。
だが眼前に見える光景は事実―――切り裂き道化師が、一刀両断されている。
「どうして………………!」
「役割交代だ」
切り裂き道化師を切った蒼燕剣をその場に捨て置き、新たな武器を製氷―――|死刑執行人の剣《 エクスキューショナー》。
接近戦の実力を見れば、メイスは冒険者の中でも底辺に値するであろう。
その大剣はメイスを断頭する―――結界の中でのみ死に行く一瞬、彼は目を閉じて抵抗を諦めた。
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




