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死霊術師

 聖七冠二位、冥王メイス―――彼は今、苦悩していた。

 拳王フェンデルに殴り勝つ上、そのフェンデルと違い油断癖も無い。

 そんな挑戦者に勝つビジョンというものが微塵も見えてこないからである。


 メイスの戦いは死霊魔術を駆使したもの―――俗に死霊術師(ネクロマンサー)と呼ばれる職種である。

 墓守の一族として生きたメイスは多くの死霊と契約し、世界でも他に並ぶものない数の手数を誇る死霊術師(ネクロマンサー)

 聖七冠に於いても、手数だけを見れば魔導王のマリーに次ぐであろう。


 だが、突出した一が無い。

 メイスがこの順位になるに際して他下位の者達に勝利できたワケは、相手の油断が大きな要因。

 フェンデルに勝つ相手の油断など期待出来ない―――少なくとも聖七冠相手に油断する男はフェンデルに勝利など出来ない。



「冥王メイス………………どうぞよろしく」


「こちらこそ、お手柔らかに」



 既に蒼燕剣を持った秋臥の前、怯えながらもメイスは杖で床を打つ。



召喚サモン―――三級死霊兵、髑髏兵(スカルウォー )



 床に空いた魔力の黒穴より、十体の死霊が現る。

 骨と魔力のみの関節部をガチャガチャと鳴らす、鎧を纏った髑髏達―――伽藍堂の瞳で秋臥を見つめ、無骨な剣を振り上げ、駆ける。



「悪いけど、多数相手は得意なんだ」



 蒼燕剣を回転させ、威力が増した状態で一蹴―――ただの一撃で、雑兵では意味がないとメイスに再認識させた。


 だがメイスとて、何の考えもなく魔力を消費する事は無い。

 

 倒されてバラバラになった髑髏兵達は、敢えて関節部をバラけさせる事でダメージを分散。

 壊れた関節部は魔力でくっ付き直し、何事もなかったかのように元の形を取り戻した。



「僕の方も、泥試合は得意なんだ…………!」


「なら対処法を変えるまで」



 再び立ち上がった髑髏兵達を一瞥し、秋臥は床に手を当てた―――次の瞬間、フィールド全体の床に氷が張り巡らされ。

 髑髏達は破壊されるまでもなく、一切の行動を封じられた。



「なら…………! 召喚サモンッ! 一級死霊兵、大髑髏者(スカルパニッシャー)ッ!



 次に召喚されたのは、大剣と大盾を装備した巨大な髑髏。

 秋臥は他の髑髏と同じ様に氷で行動を封じられるかと試すが、薄氷では意味がなく。

 その圧倒的な力で進撃を開始する。



「――――――逆垂氷柱(さかだるつらら )



 一歩―――進撃開始と一歩駆け出した瞬間、大髑髏者の動きは停止した。

 ショーウィンドウの様に、魔力密度の高い通常の氷に包まれたのだ。



「なぁっ?!」


「次は、こっちから攻める」


「………………っ!」



 マリーの紅炎(プロミネンス)ばりに多様される大髑髏者(スカルパニッシャー)

 それが一瞬で完封された―――目の前の光景はメイスに、明確な敗北を連想させるに充分すぎる材料であった。


 だが彼に投降の選択肢は無く―――普段より自己肯定感の低い彼を奮い立たせる材料である強さを、彼が捨てる事は出来ない。


 そして何より、今投降してしまえば彼が聖七冠である理由が無くなる。

 彼が、己を奮い立たせる理由が無くなってしまう―――大恩人、元聖女セリシアに報いるべく、彼は戦い続けなければいけなかったのだ。



 「セリシアさん、君に捧ぐよ―――召喚(サモン)ッ! 無級死霊、死霊行列(デスパレード)ッ!!!」



 メイスは叫んだ―――声を震わせながら、力一杯。

 観客からすれば試合開始から一分未満の出来事だが、メイスにとっては聖七冠着任以来の威信を賭けた一分未満。


 これまでの功績を短時間で爆発させる様に、思いを詰め込んだ一手なのだ。


 冥王メイス―――彼には戦いの度、思い出す日がある。

 あれは胡散臭い活動家が街で演説をしていた、メイスが冒険者になるより前の日であった。

(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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