五位
蒼燕剣と氷魔法によって、全方位より繰り出される攻撃。
ドラグは現状全ての攻撃を無傷で防いでいるものの、自身の弱点に触れられれば形勢は逆転する事を知っている。
竜人族が皆持つ、原種の竜から受け継がれた特徴―――逆鱗。
竜の名を持つものならば皆持ち合わせるそれの場所に気付かれぬよう、最小の回避と大胆な防御で立ち回る。
「――――――見つけた」
「何とッ!!!」
普段の余裕ある戦いならば決して起こさない誤ち。
不意に聞こえた秋臥の呟きに反応し、つい逆鱗を護ってしまった。
手で隠された喉仏の位置―――仕掛ける瞬間を狙い澄ましていた秋臥からすれば、遅過ぎる防御であった。
「銀骸―――衝手」
左腕に纏った、高純度の氷制武装。
肘方向に向かって開いた穴からの魔力噴出による単純な攻撃の威力強化と、氷で作られた刺突用に尖った手の形。
急拵えの手の防御―――指の隙間を突破して、ドラグの逆鱗を突いた。
「なんの、これしき………………ッ!!!」
「そうだろうとここは一つ――――――思いっきり振り抜くっ!」
口では強がっているものの、明らかに苦しむドラグの顎へと向けた全力の右。
後に続く攻撃や防御の全てを度外視―――ボクシングのワンツーなどとは似ても似つかない、格闘技よりも喧嘩寄りの追撃が、この一撃を最大火力とするべく乱暴に放たれた。
天然由来―――鱗の鎧こそ砕けぬものの、衝撃はその内側へと響き。
体内に張り巡らされた魔力の壁も全て砕き、脳を揺らした。
ドラグの視界が不思議に揺らめく―――だが、彼は倒れず。
二百三十センチの巨体でなんとか仁王立ちし、未だその威厳失わずに秋臥を見下ろしている。
「よくも、ここまでに至った―――大地にも勝ろう一撃であったぞ」
称賛の言葉を残した後、ドラグの巨体は仰向けで地に倒れた。
それと同時にフィールドの結界が解除。
戦闘中、内部にはシャットされていた実況の声が聞こえ始め、戦闘によって見る影もなかった地形は元通りだ。
「見えるでしょうか…………! 生身でベヒモスとの肉弾戦を行う守護者ドラグの巨体が倒れているこの光景が…………! 着位祭第一試合勝者、加臥秋臥が、素手を持って冒険者最硬の盾を打ち破った………………!!!」
瞬間観客達は喝采を上げる―――開始時以上の盛り上がりの中、秋臥はドラグに一つ礼をしてから静かにフィールドを離れた。
誰よりも近くで戦いを見届けた香菜の元へと戻ると、力が抜け大きなため息を溢す。
それを見て、香菜は小さく笑って秋臥の手を優しく包んだ。
「お疲れ様です―――先ずは一勝、ですね」
「ああ、何とかね」
「開始前言っていた通りでしたね、かっこよかったですよ」
「ならよかった」
有言実行に対しての賛辞へ、少し照れながら言葉を返す。
一先ず第一試合勝利という事で、聖七冠の五位が確定。
続く第二試合は三十分後―――それまでは控え室に戻り、頭の疲れを癒す事となる。
鳴り止まぬ喝采の中、二人は廊下を戻って行った。
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




