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組手

「僕がいた場所にはね、ねこのここねこししのここじしって言葉があった」



 秋臥の鍛錬により、すっかり開けてしまった森の中。

 実践形式による鍛錬を期待していたガレッジの期待を裏切って、始まったのは口伝による授業であった。


 氷の棒で地面に、子という文字を十二個描いて見せるとそれをトントンと二度突く―――この話がどう実力の昇華に繋がるのかと不安気なガレッジを気にせずに、秋臥は話を続ける。



「子供の子という字だ―――これを十二個で、子子子子子子子子子子ねこのここねこししのここじしと読む」


「…………それが、どう鍛錬と関係を?」


「要は、同じ文字でも場所が違うだけで読み方が、意味が違う―――戦闘に於いてもそれは一緒で、蹴り一つ取っても奇襲の蹴り、間合いを図る蹴り、様子見の蹴り、フェイントの蹴り、ブラフの蹴り、本命の蹴りと、一つの選択肢に納まらない」



 氷で五メートル程の円形土俵を作り出すと、その中に入って手招きでガレッジを呼ぶ。

 この土俵は秋臥が戦闘時に間合いと意識する広さ―――これから開始される鍛錬に僅かながら心躍らせるガレッジに素手で構えを取らせた。



「一秒に一つの行動を―――攻撃、防御、回避や起き上がり、体制の変更をテンポよくね」



 ルール付きの組手だ―――一つ一つの技の意義を考えながら、何をどう扱うか確かめていこうという訳である。



「じゃあそっちのタイミングで初めてね」


「それじゃあ、早速………………」



 向き合った状態から放たれた初手は右手の突き―――秋臥がそれを左手で流すと、右足で首目掛けた蹴りを放つ。

 ガレッジは僅かに身を屈めて回避した後に、低い姿勢のまま、秋臥を転がすべく身を回転させながらの蹴りを放った。

 それと同時に、秋臥が跳躍し蹴りを回避すると、浮いた体へ向かいガレッジの正拳が真っ直ぐに飛来。

 浮いた状態での蹴りでそれを迎撃して着地から、軽く左のジャブを放つ。


 一秒に一回、小気味良く肉同士のぶつかる音が鳴る。

 メトロノームの様に正確で、ミット打ちの様にばらけた音で。


 開始から五分も経つと、ガレッジの表情には疲れが現れ出す。

 この世界の水準に於いて、ガレッジは体力が多い方と言って良いだろう―――しかし、この一秒に一回行動という制限がその多い体力を削る。


 相手の動きの予測、自分の動きの決定、次の手を考えながらの行動と、一秒ごとに行動という一息つく余裕のない条件。

 つい呼吸を忘れれば体力の消耗は加速し、呼吸を意識し過ぎれば行動が疎かになる。

 次第に汗が増え、息を切らし―――経過三十分を超える頃、遂にガレッジは尻餅をついた。



「思ってたより(つら)い?」


「思ってた倍は…………………どんどん、手が無くなってきて…………次の一秒までが早くなる様な………………」


「先ずは息を整えようか」



 肩で息をしながらも土俵の外へ出て、用意された氷の椅子へと座り込み、余裕で立つ秋臥を見上げる―――汗一つ出ていない、鍛錬開始前とまるで変わらない様子。

 運動量は自分とそう変わらぬにも関わらず何故こうも違うのかと思考を巡らせるが、疲れ切った頭では碌な回答は出ず。


 今はただ体力の回復に専念しようと決めた。



「何か、コツとかあるの…………?」


「何も考えてないよ」



 少し回復した所で聞くと、あっけらかんとした返事が返っていた。

 この流れに慣れるしかないのかと思い、ガレッジは立ち上がると再び土俵の中へと。


 組手を再開しては限界を迎えてを繰り返して一日が終わる。


 この日の最高継続時間は、初回の三十分であった。

(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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