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正しい師事

 結局、サレンは聖七冠入りを断った―――七位は暫く空席とし、着位祭は秋臥のみの開催。


 着位祭はコロシアムの歴史が深い国、ミルフィオーネ行われることが決定。

 聖七冠の面子が入れ替わるかもしれない―――そんな話題性のあるイベントは毎回有料で一般公開され、クロニクルの財源を潤す事に一役買っているのだ。


 第一戦の相手は守護者、ドラグ―――龍人族の中でも、全身を鱗で覆った状態、先祖返りを可能とする数少ない存在である。


 対決の日は一週間後―――それだけ話をつけると、秋臥は、サレンと共にマリーの転移魔法によってエルフの森へと向かう事に。


 久々の恋人との再会―――秋臥の顔を一目見た香菜の反応は、静かなる感涙であった。



「――――――私の脳が、ついに完璧な秋臥の幻覚を」


「正真正銘僕だよ、香菜」



 優しく手を取ってやると、香菜は膝から崩れ落ちる。

 ポロポロと涙を溢し数秒―――次に香菜がとった行動は、連れ去りであった。


 この森で香菜が借りている家へと秋臥を連れ去ると、そのままベッドへ押し倒し。

 暫く休みのない行為を覚悟した秋臥の想定を裏切って、ただ胸元へと抱きついた。



「ずっと貴方を思っていました―――雨の日も風の日も朝も昼も夜も、起きていても夢の中にいても鍛錬していても食事をしていても着替えていても髪を切っていても世間話をしていても自慰に浸っていても読書をしていても手紙を書いていても時計を見ていてもマフラーを編んでいても体を洗っていても掃除をしていても空を眺めていても森を歩いていても買い物をしていても絵を描いていても爪を整えていても動物の声を聞いていても化粧をしていても笑っていても泣いていても、ずっと心は貴方を思っていました」


「そっか、僕と一緒だね」



 仰向けに倒した秋臥の胸の中、過呼吸気味になりながら言う香菜の背を摩りつつ言葉を返す。

 その声色には優しさだけが籠っており、突然行われた連れ去りや胸の内の吐露などに対する驚きなど一切含まれていない。



「僕もずっと、君の事を思っていたよ―――香菜、会いたかった」


「私もです…………ずっと、会いたかった」



 この日、二人が家から出て来る事はなかった―――その代わり、家の一室からは少女の悲鳴にも似た嬌声が聞こえたとか、聞こえないとか。




 ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




「昨日は失礼しました」


()い、久々の再会とあれば燃え上がるような時間もあろう―――伊達に儂等長くは生きておらん。ヌシらを咎める様な事はせんよ」



 二人が一晩求め合っている間、サレンからの連絡を受けてガレッジを連れ、エルフの森へとやって来たラジェリス。

 正気を失っていたことに関しての謝罪をした香菜を許すと、ニヤッと嫌らしい表情を秋臥に向けた。


 聖七冠云々(うんぬん)の情報伝達は既に済んでいるらしく、二人が合流してからは早々に有益な話を。


 冒険者を引退した元聖女セリシアと元剣聖ルークやアリスを森へと極秘で呼び寄せ、今後の作戦を練ること。

 冥国には戻らず、エルフの森で修行を再開すること―――そして、今後の修行では秋臥が師となりガレッジを鍛えることなど。


 秋臥は初めの二つまでは納得したものの最後の一つ、ガレッジを自分が鍛えるという点だけは理解出来なかった。

 アリスという現在の師や、世界最強の剣士たるルークが居る中、何故秋臥がガレッジを鍛えるのかを。



「あの二人はダメね―――師匠にするには最悪の人選よ」


「同感じゃな。ヤツら壊滅的に教える才能がない」



 双方天才に過ぎるという話である。

 アリスは元より天才であり、感覚派―――これまで育てた生徒といえば最たるものがルークというこれまた大天才であり、指導の結果見本にはならない。

 何となく納得した秋臥から少し離れた位置―――今まで黙って話を聞いていたガレッジが、気怠げに口を開く。



「あのお二人が天才というのは、まあそうなんでしょう………………だけど、それだけじゃあないですよね? 言ってください、そっちのが、燃えます」


「なんじゃ? 身の程を知って尚言えとは…………もしやヌシ、マゾか?」



 ガレッジに対して戯けて言葉を返したラジェリス―――だが、力無い声に込められた僅かな真剣さと純度百パーセントの真意を感じ取りそれ以上ふざける事は無く。

 一度深くため息をつくと、真剣な眼差しをガレッジへと向けた。



「ガレッジ、正直言ってヌシは凡人じゃ―――剣聖コンビである奴らの指導は天才向け。ヌシが学ぶには身に余る…………分不相応なものじゃろうな」



 想定通りの言葉に、ガレッジは下唇を噛み締める。

 自分がアリスやルークの様な才能を持ち合わせていたならば、今状況はどれだけ好転していることか―――自分一人で、既にトラオムを潰せているのではないかと考えてしまうのだ。



「じゃが安心しろ。天才には天才向けの指導がある様に、凡人に向けた指導も存在する―――そして、ここに教鞭を振るう者もおる!」



 言うと両手で秋臥を示す。

 ガレッジをあまり不安にさせてはいけないと、ここは一つ乗ることにした秋臥はドヤ顔で腕を組み―――頼れる師匠を自己演出した。



此奴(こやつ)は剣の腕でいえばあの二人以下であろうな―――じゃが、徒手においては此奴が一歩秀でる。零秒なんかを禁じた上での、技の引き出しや汎用性に於いては特にの」



 それを聞き満足気に頷く香菜と、僅かに師匠面に羞恥を覚え始めた秋臥。

 だがそれを無視してラジェリスは言葉を続ける―――自身を主とする組織、トラオムの被害者である少年を少しでも勇気づけるためにと。



「此奴に学べ、此奴を刻め―――さすればヌシは凡人の力で天才と同じ域に至れよう!」



 秋臥が( いだ)く覚えたての羞恥心は、一瞬にて限界点へと至った―――しかし、ラジェリスの言葉を聞いたガレッジの胸には確かに炎が灯った。

 漠然とした先送りではない、明確な指標を手に入れたガレッジのモチベーションは、最高潮へと達しようとしていた。


岸辺露伴見てきた〜


(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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