力の極み
「………………何ですか、聖七冠勢揃いで」
「……………何の要かしら、こんなときに雁首揃えて」
かつてない程にキレている二人を見て、一瞬場が固まる―――誰かが思った、自分以外の誰かがこの状況を打破してくれないかと。
「いやあ、すまないねお二人さん―――ボク達も火急なんだ。少し話を聞いてもらえないかな」
「ベネティクトさん………………冥国で鍛え半年、半年ぶりに香菜に会いに向かう所なんです………………それを遮る用事とは?」
「君達に対する、聖七冠入りの打診さ」
それを聞いて、秋臥は目の端がピクッと動く。
下らない話ならば無視して帰ろうと考えていたのだが、それなりに大事。
無視するわけにはいかない話だ。
何より、この話の火種は自分―――今すぐ香菜の元へ向かう事を諦めた秋臥は、頭の中をリセットして話を聞く体制へと入る。
だがサレンは違う―――苛つきが収まることはなく、眉間に皺を寄せたままその感情を隠そうともしない。
「森の復興で忙しいのだけれども………………貴方も総帥ならば、緊急時にリーダー不在の重大さが分かるでしょう? ルーベルト・ドリファス」
「後程、支援団としてクロニクルの職員を送る。それを条件に少しの時間を割いてくれんか?」
「生半可な数なら承知しないわよ」
「無論、こちらの用意出来る数で足りないというのならば外部の企業にでも声をかけて満足の行く数を集めさせよう」
「………………仕方ないわね、なるべく手短に済ませて頂戴」
「善処しよう」
話はついたと言うことで聖七冠への推薦と、それを承認する場合の着位祭に関する説明を―――事前に大体の情報を把握していた秋臥も、これが初情報のサレンも、別段驚くようなことはなかった。
「最近王都襲撃などなど、何があるか分からない状況―――そこで、聖七冠が負傷する可能性のある行事を?」
「対戦はマリー君の用意した特殊な結界の内部で行う事になっている。そこでの負傷は結界外部までは持ち越されないので安心して良い」
「それはまた、便利な」
有事の際に行使される武力を削ぐことがないというならば、秋臥は大人しくして従うこととした。
元より聖七冠に属する事は織り込み済み―――ここで話を断る理由はない。
「私はお断りさせてもらうわ」
「訳を訊いても?」
「種族間の均衡を保つためよ」
尋ねたルーベルトに対してサレンは即答。
その回答では満足でないような周囲の雰囲気に一つため息をこぼしてから、その言葉の訳を語り始める。
「現状、種族として見た場合最弱は人間よ―――他種族の様な秀でた特徴がないのだからね。そんな中、人間が他種族と同等の地位を保ってられるのは、個々人の実力に於いて最上位を人間が占めているから―――元剣聖のルーク・セクトプリムやアリス・セクトプリム、現魔導王のマリー・ジェムエルなんかの事ね」
言いながら、この場にいるマリーへと視線を向ける。
聖七冠の一位二位を人間が独占している―――その情報は、充分に他種族への牽制たり得るものという事だ。
「それを、空位となった一位にエルフの私が座してみなさい―――忽ち、種族間の情勢は変わってしまうわよ」
「皆の知る最強、ルーク・セプトクリムは決して死したわけではない」
「それでも、皆の知る最強の座は私に譲られてしまうのよ――――――」
「少し、聞き捨てならないわ………………」
二人の会話に口を挟んだのはマリー。
席を立ちサレンの元へと詰め寄ると、威圧する様に魔力を放って見せる。
無色透明な筈の魔力が黒く色づいて見える程の魔力深度―――並の生物ならば、この魔力を浴びただけで死に至るであろう。
「その話…………私が貴女よりも弱い事を前提に進んでいるわ」
「ええ、その前提で進めさせてもらっているわ」
「ならば机上の空論と知りなさい」
「試してあげましょうか?」
「望むところよ………………魔導王の力を、目に見せてあげるわ」
その場で、ベネティクト以外の全員が違和感を抱いていた―――普段の面倒臭がりなマリーらしくないと。
皆の知るマリーは、自身に対する侮りなど気にも留めない人間であった。
決して、それを原因にエルフの女王に喧嘩を売る人間では無いと皆記憶していたのだ。
唯一訳に気づいたベネティクト以外の全員が、目の前で起きている事に目を疑っていた
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




