indifference
「アスター、あなたは村の中に気になる人はいるの………?」
エリーは尋ねた―――その手の質問は、二度目である。
以前聞いたのはまだその感情に気づいていなかった頃。
今十六歳のエリーと比べては、酷く幼かった頃だった。
「居ないよ―――そういうのにはあまり興味がないんだ」
今度のアスターは、エリーが放った言葉をエリーの思い通りに受け取った。
その答えに安心しながら、落胆しながら、今度は一人走り出さずに森の中を進む。
「この森は何度入っても面白い。村長さんの魔法で、時期や地域が本来別々な筈の植物が隣り合わせに生えてる」
言いながら、アスターが地面に目を向ける。
「この花、確かイベリスだ。最近教えてもらって、花言葉は……………………」
「無関心ね。寂しい花よ」
「よく覚えているね」
イベリスの花言葉は他の意味もあるが、エリーの記憶にはソレが強く印象に残っていた。
二人はそれからも、花を見て、名前と花言葉を挙げながら森の散策を続けた。
そして村の影が見えないぐらい深くまで進んだ頃、不意にエリーが立ち止まる。
「この辺りよね」
そこは、森の中でも開けた場所。
そして二人とも、縁深い場所だ。
「この場所、覚えている?」
「忘れられないよ―――あの魔獣には肝を冷やされた」
巨大な狼の魔獣を倒した地。
そこで止まったエリーの方へと振り返ると、アスターは異変に気づく。
普段の奔放なエリーとは、表情が違っているのだ。
「村に、気になる人居ないのよね…………?」
「ああ、居ないよ」
「だったら、私はどう…………?」
「どう、とは…………?」
敢えて真っ直ぐには受け取らず。
エリーの心の内は、分かっているにも関わらず。
「私を、娶ってみない?」
「駄目だよ」
即答した―――少し困った様に眉を曲げながら何と続けるか悩むアスター。
少しの思考の後に、誰にも伝えていなかった話をエリーにならしても良いかと考えた。
「………………ハイヒューマンを、知っているかな?」
「知っているわ、貴方がそうなんでしょう?」
「そうそう僕が………………今なんて?」
「十年も前から容姿が全く変わらないんですもの。気付くわよ―――昔に世界総出で絶滅させられた種族というのも勿論知っているわ」
エリーはあっけらかんと言った。
それに驚愕して目を見開き、何とか続きの言葉を思い出そうとするアスターに対して、ぐいっと一歩近づくエリー。
「種族とか、私関係ないわよ?」
「違うんだ、エリー…………歳、年齢の話なんだ…………」
続きを思い出すと、アスターは言葉を続ける。
ポツポツと、伝えにくそうに。
「僕の年齢は、この見かけ通りじゃない…………産まれて百年。君達で言う所の老人さ」
「だったら何よ」
「要は………………まだ僕から見て、君は若過ぎる」
話の落とし所を見つけた。
実の所、アスターは年齢などそう気にしていない。
だがハイヒューマンの自分と共になれば、エリーの身にまで危険が及ぼう。
ただでさえ孤独であった自分に居場所をくれた彼女の身に万が一の可能性でも危険が及ぶ事を、アスターは良しとしない。
「僕の好みは大人の女性なんだ―――だから、駄目だよ」
「………………いいわ、今はそれで引き下がってあげる」
くるりと踵を返して、村の方を向く。
アスターが恥ずかしく、口に出せなかった思いなど知る由もなく次もやると公言する様な態度。
その日よりアスターの苦難は始まった―――そして、エリーによるアスター攻略も同時に開始されたのであった。
体調崩した
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




