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アスター

 総数で勝れ―――ハイヒューマンの集落一つに対して、魔術師と魔女の一個師団で挑め。

 接近戦を試みるな―――敵の射程外より魔法の絨毯爆撃を仕掛けよ。

 補給を許すな―――殲滅が叶わぬ場合は、敵の疲弊を目的とした攻撃に切り替えよ。

 逃走を許すな―――子供一人、女一人、そこから種の繁栄を許さぬ様に、慈悲を与えず殺すのだ。

 慈悲を許すな―――この作戦への参加を拒む者には、洗脳の魔法を用いて参加させよ。


 全世界に発令されたこの指示に従い、一週間で百を超えるハイヒューマンの集落が滅ぼされ。

 三千十五人もの命が失われた。


 そんな作戦より逃れた男が一人―――ただ一人、集落に属さず生きて来た名も無きハイヒューマンだ。

 幼少期は親と過ごし、言葉を教えられ、常識を教えられながら育ったが、生まれ落ちて百年も経った今では親も居らず。

 ただ一人で目的のない旅を続けている。


 ある日、男が森の中を歩いていると、一歩踏み締めた瞬間木陰より叫び声が。

 耳に障る、子供の甲高い声だ。



「ちょっと、足を退けてちょうだい!」


「………………ああ、花ね」



 足元に目を向けると、そこに生えていたのはアスター。

 そして潰れたアスターを指差しながら男を睨む少女の姿があった。


 男が足を退けると、少女も花を眺めるためにしゃがんだ体制から立ち上がり、遥か上にある男の目を見つめる。



「あなた、名前は?」


「無いよ」


「ないわけないじゃない! 名前がなかったら皆んながどう呼べばいいか分からなくなっちゃうもの!」


「僕が自分の名を呼んでくれる誰かと居るように見える?」


「ん…………確かに。誰かが一緒にいたら、体を洗いなさいって教えてくれるもの」



 男は汚かった―――着ているものは辛うじて服と呼べるかどうかのボロ布で、毛髪はフケと油で固まっており。

 少女の鼻に届く匂いも、川で水浴びをする獣の方がマシと思える程度だ。



「決めたわ、あなた今日からアスターって名乗りなさい! これから花を踏めば、それば自分の名前を踏むのと一緒、いいわね!」


「名乗る相手なんて居ないよ」


「私に名乗るの!」



 少女は森の少し先を指差す―――僅かに見える民家の影。

 少女の暮らす村だ。



「最近空き家の管理が大変だってパパが言ってたの! 人が住んでくれればきっと助かるわ!」



 少女は嵐の様で、男に拒否権など与えずに話を進める。

 手を引かれ村へと連れて行かれ、空き家に男を住ませるという少女の案は二つ返事で許可が降りた。


 この日男は無名でなく、アスターとなった。



「いいこと? アスター。この村じゃ私があなたのお姉さんだから、分からない事があったら私に聞くのよ!」


「分かったよ………………じゃあまず、君の名前は?」


「まだ言ってなかったかしら?」



 少女の両親から空き家に住み着く許可を得て、さあ新居へ向かおうと言う道中に聞いた―――先行く少女は自身の名乗りを忘れていたと、くるっと振り返って笑う。



「私はね、エリーっていうの! よろしくねアスター!」

やっとアスター出て来た

(更新状況とか)

@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)

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