二代目
「これ、私の……………」
マリーは発見した魔道具を手に取り、内部に残された魔力の残量を確認。
義眼の瞳部分を壁へと向けて、投射の機能を使用した。
映し出されたのはドロシー視点での、イベリスとの戦闘。
未知の魔剣と、確かな死亡状態からの蘇生と―――新情報に満ちたものであった。
戦闘映像はドロシー死亡の瞬間で途切れており、その瞬間マリーは思わず目を伏した。
ここに来る前、黒猫が荷物を届けに来た時点で覚悟を決めていたにも関わらず、彼女の心はその瞬間を目にする事を拒んだ。
そして深く後悔する―――自分が依頼しなければ、ドロシーは死ななかった。
ドロシーの命を奪ったのは、自分も同義なのだと。
そんな考えを汲み取る事なく、映像は場面変わって、この研究施設で撮影されたものへと。
画面の中心、脚を組んで座るドロシーの姿が。
戦闘に赴く前に撮影されたものであろう。
『ちゃんと撮れているかしら? 撮れているわよね。だって、マリーの作った魔道具ですもの』
戦闘時の敵意と皮肉で満たされた声ではなく、孫にでも語りかけるような慈愛に満ちた声で喋り始めたドロシー。
目の端に皺を寄せて優しく笑うその表情は、普段から薬品研究の事に頭を悩ませて難しい顔ばかりしているドロシーには珍しい、マリーのみが知っている暖かい表情である。
『この映像を見ていると言う事は、きっと私は死んでしまったのね―――マリー、貴女のせいじゃないわ。この仕事を受けたのは私の意思。それで死んだのなら、この死場所は私が用意したのと同じなんだから…………と言っても、貴女は思い詰めるのでしょうね。自分を責めるなら、せめて戦いが終わってからにしなさい。自責で私の命を無駄にしちゃダメよ』
戦闘映像を見たマリーの思考を見透かしたように言う。
そこまで聞いた頃には、すっかり口元をキュッと結んで映像へ再度目を向けたマリー。
続きドロシーは、自らの口で遺言を語る。
「貴女がこの魔道具を作った日から、私は魔女を名乗るのを辞めた―――多種多様、何が飛び出すか分からない。私だけが魔女と呼ばれた所以だけれど、それなら貴女の方が魔女と呼ばれるに相応しいのだもの。私の前で魔女と名乗らなくなった子達を見て何を恥ずかしがるのだと思っていたけれど、今になって初めて分かったわ―――本当に相応しい者の前で分不相応の名を語る恥ずかしさ。あの子達もこんな気持ちだったのね。今となっては魔導王なんて呼ばれる貴女だけれど、私としては魔女の名の方が相応しいと思っているわ―――貴女、王なんて器じゃないんだもの。精々魔法が誰よりも得意な、普通の女の子よ」
そこまで言うと、ドロシーは少し寂しそうな顔を。
それだけでマリーは悟る―――もうじきこの映像が終わるのだと。
かつてこの魔道具を作ったマリーは、魔力の消費効率を度外視していた。
常人の魔力ならば精々十秒の記録―――ドロシーとて、三分が限界だろう。
「マリー、私と対等に魔法の話をしてくれてありがとう。私以上の才能を持って産まれてくれてありがとう―――あとは、頼ってくれてありがとう。後は任せました、頑張りなさい。貴女に出来ないことなんて何もないんだから」
最後にそれだけ言うと、映像は終了。
マリーは感傷に浸ることなく、既にイベリスへの対処法へと考えを巡らせていた。
今しがたドロシーより託された使命のために、普段の様に面倒くさがる事無く。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「私が聖七冠になる際渡した魔道具、天の龍目のプロトタイプと言うべきかしら―――これのカメラは叔母様、魔女ドロシーの元にあるわ」
クロニクル総帥ルーベルトと、聖七冠が勢揃いした会議室に持ち込まれた一つの魔道具。
ルーベルトのアイコンタクトを受けてそれに残った記録を再生すると、映った映像はドロシーの視点で撮影されたイベリスとの戦闘であった。
新たに記録される魔剣と、確かな死亡状態からの蘇生。
敵対神エティシアと同じく、イベリスもただ殺せば良い相手では無いと皆が理解する。
「有益な情報だが、それだけでは無いようだな―――聞こうか、魔導王である君が用意する対応策を」
「イベリスの永久封印指定を―――封印具は私が用意しているわ」
既に制作したわけではない、現在進行形―――現状この世界に於ける結界や封印の強度は、マリーが制作にかけた時間に比例するとされている。
今回のモチベーションは異例のマックス。
封印具の強度は、神にすら届こうとしていた。
「それとボス、私の席の名を変更して頂戴。魔導王はもう要らないわ―――私は魔女。魔女のマリー・ジェムエルを名乗る事にしたの」
お受験の準備で更新お休み多くて申し訳ない
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




