先遣隊
憎らしくも笑う総司を睨み、歯を食いしばる秋臥。
その一挙手一投足を注意深く観察しながら、脳と眼球を薄い魔力の膜で保護する。
過去、トラオムに所属していた頃には気づけなかったものの、総司は確実に魔法を使っている。
化物じみた怪力は身体強化、自分を信用させ、戦力を増やすのは洗脳。
身体強化は今となっては同等か、不等号で秋臥の勝る点ではあるが、洗脳に関しては未だ脅威。
脳と目の魔力保護は、それを防ぐにと行われたせめてもの抵抗であった。
「そう恐るるな―――私は君がこの世界で戦って来た敵と比べれば、なんて事ない雑兵。雑魚だろうよ」
「総司……………………ッ!」
「なんだ、先の言葉が出ないようだな。冷静さに欠くのは昔から変わらぬか」
総司の殺し方を模索する。
刺すか斬るか殴るか蹴るか、はたまた全身を凍結させ砕いてやるか――― 冷静ではない、獣の様な血走った目で獲物を見定める。
そんな所で、総司が秋臥の胸部分を―――正確には、腕と胸板で抱きしめ保護している香菜を指差す。
「聞くが、それがそんなにも大事か?」
目を向けると、抱きしめていた香菜だった筈のものが木偶人形へと変わっていた。
秋臥はそれ程驚いてはいなかった―――元々、それが香菜でない事は一目見た瞬間より理解していたのだ。
だが、それでも許し難かった―――香菜の形をしたものを、死体に扮させて持ち出した。
逆鱗に触れていた。
怒りで冷静さを失い、言葉に反応して総司より目を逸らすと言う一瞬の隙。
顔面に拳がめり込んだ―――まるで、総司の頭蓋を砕き殺害した一撃のリプレイ。
だが今回は前提が違う。
打つのは総司、受けるのは秋臥―――両者魔力による身体能力を駆使しての攻防。
顔面に攻撃を受けたのではなく、顔面で攻撃を受けた。
倒れたように見えて、その実はリンボーダンスの様に膝を折り曲げて立っている。
タイミングを合わせて自ら倒れ衝撃の一切を流すと、手元に氷の棒を作り出してカウンター。
総司の横っ面を殴打して怯ませる事に成功した。
「蒼燕剣………………!」
「いいのか? そんな状態で武器なんて出して」
立ち上がって、いざ本格戦闘―――そう思ったと同時であった。
地面が起き上がり、秋臥の全身を強く打った。
瞬時に起き上がるも世界が歪んで見える―――脳震盪でも起きた様だ。
「今日は嫌がらせに来ただけなのでな、もう帰らせてもらおう―――追われては困るのでね、邪魔だけはさせてもらおうと思う。楽しんでおくれよ」
「少し目を離しただけでこれか―――全く、身の程を弁えぬ奴らじゃ」
「出たか、馬鹿神………………」
昼食に握り飯を包んだ朴葉を持ち現れたラジェリス―――普段のふざけた様子とは違い、額に怒りマークでも見えそうな形相。
昼食を地面に置くと左手には雷を、右手には暴風を持って戦闘体制を。
総司側の戦力も、皆一斉に警戒体制へと入った。
「そう力むな、殺しはせんよ」
言うと左手と右手を重ねる―――合掌。
左右から雷と暴風が、総司達を挟み襲い揉んだ後に、遥か遠方へと吹き飛ばしてしまった。
「いつまでそうしておる―――頭を自分の魔力で濾すんじゃ」
言いながら、秋臥の頭に触れて自分の魔力を僅かに注ぐと、魔法として残されていた総司の魔力と混ぜて吸い取る。
固有の魔法ではない、ただの魔力操作による技術であり、誰でも習得出来るものだ。
まともな視界を取り戻した秋臥に、今しがた持って来た昼食を放り投げる。
食いながら話を聞けとジェスチャーで伝えると、自分は地べたに胡座をかき、三つの握り飯をそれぞれ一口で食べ切ってしまう。
「巻き込む…………というわけでもなさそうじゃな。ヌシらの因縁は把握しておる。今度の戦いは、元居た世界の比ではないぞ?」
「…………戦争か」
「全面戦争じゃな―――かつてあった神話の時代を再現する事になるじゃろう」
神話の時代―――ラジェリス、エティシア以外の神々が地上に跋扈し、猛威を振るっていた時代。
エルフの始祖、サレンの全盛期も丁度その頃であろう。
常に誰かの気まぐれで世界が終わりかねない日々の連続であり、ラジェリスとエティシアが双子神としての立場を確立した事によって終わりを迎えた。
「ここだけではない、世界各国に先遣隊が現れた―――エルモアース領やエルフの森、サレスティアや、その他各国の王都などなど。その全てが現地に居た実力者や聖七冠によって対処されているが、その殆どで災害級の被害を残しておるわい」
「エルフの森…………!」
「そこはサレンが動いた―――それと兵隊長の娘が活躍したそうじゃが、知り合いか?」
「兵隊長…………リリスか。なら安心出来る」
「安心している場合ではないぞ。今言うたようにこれは先遣隊―――本命はこの後続々来るんじゃからの」
早々に飯を食い終えたラジェリスが、先程までとは違ってテンション高めに立ち上がる。
左手に吹雪を持ち、秋臥へと見せつける。
掌の上で吹雪く雪の一粒一粒が、秋臥が使っていた従来の魔法の魔力深度を超えている。
「儂直々に秘術を授けてやろう―――スペシャルじゃ!」
久しぶりに、お腹いっぱいお肉食べた
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




