冒険者ギルド
「やっと出て来たかお前ら―――少し座って待っててくれよ」
病院から出た秋臥が香菜に連れられて向かったのは、少し新しい木造の建物。
道中改めてリラックスしながら見た街の風景は、昔千葉の旅行で見たドイツの街並みに似ていた。
入った建物の二階、先にその部屋で待っていた―――と言うにはあまりにも仕事中の、事務作業を熟すラクルスに促されるままソファーに二人並んで着席。
途中女性が紅茶を持って来たりなどしながら二十分ほど待ったところでキリの良いところまで作業を進めたのか、向かいのソファーに座るラクルスが手を止める。
「よしっ…………待たせたな。回復したようで何よりだ」
「いえいえ、半月ほど眠っていたようでご迷惑をおかけしました」
「こっちで頼んだ仕事の結果だ、負傷の結果に文句言う筋合いなんかねえよ」
そう言いうと、ラクルスは一度大きく息を吐く。
目覚めた秋臥を見て、ようやく肩の力が抜けた―――彼を死なせてしまえば、新当主としての歩み出しはロクなものにならないと理解していたからだ。
「まずはこのエルモアース領奪還、愚兄ゴルシアの討ち取り、感謝する…………! この恩は事前に約束した金額じゃあ割に合わねえ……!」
両膝に手を乗せて深く頭を下げるラクラス。
突然の礼に驚きはしたものの、これにやめてくれと頭を上げさせてはかえって失礼だと理解している秋臥は静止などせず、ラクラスが元の姿勢に戻るまでの数秒を待つ。
「屋敷の修復にある程度の金が必要なんでな、国が出す様な大規模な報奨金は出せねえが…………それにしても、この恩義は何かしらの形をもって返させてもらうぞ」
「僕達としては最初に約束いただいた金額頂ければ良いんですがね…………香菜、何かある?」
「そうですね…………ならば、優良な宿屋を紹介していただきたく。出来れば部屋の防音性が優れているような…………」
「防音性、アンタら二人で何か企みでも…………いや、こりゃあ野暮だな。了解した、今日中に良い場所を決めておこう」
男女と防音性と言う言葉に何かを察したのか、途中で言葉を中断したラクラス。
次に若干の苦笑いを浮かべる秋臥へと視線を向けると、お前も何か要求しろとでも言いたげな目力を発する。
「では僕も…………何か、身分のないものでも出来る仕事を紹介していただけないでしょうか? しばらくの生活費をいただくとはいえ、長い目で見れば僕達は根無草の一文無しと変わらない問題でして」
「ああ、それなら俺より良い奴が丁度お前らに会い来てるぞ。一回のロビーでお前ら見たやつが呼びに行ってると思うんだがな…………っと、噂をすればか」
ラクルスが言うと、二人は外へと耳を澄ます―――足音が二つ。
室の扉がノックされて、ラクラスの入れの言葉に反応して開く。
「初めまして、僕はルーク。こっちは――――――」
「セリシアです」
金髪の、典型的な美形の男と、静かに微笑む女。
その二人がそこには立っていた。
「あ…………コイツがアンタらお探しのだ。恩人だ、バカな真似すんなよ」
「僕は教会に属してるわけじゃないですよ。安心して任せてください」
一つため息をこぼしたラクラス、どうやらあの二人は、新たな心労の種の様だ。
「奴らはな、お前が出した氷に気づいて見に来た…………まあ、少し厄介な野次馬みてェなモンだ。金を稼ぎてえんならコイツらの話聞くのが早えぞ」
「そうですか、ありがとうございます…………」
詐欺の様な、騙している様子はない。
話を完全に信じ込むワケではないが、試しに従ってみるのも悪くはないと判断した。
「稼ぎ…………僕達の用事と一致しますね……! ついて来てください、セリシアは待機でお願いします」
「ええ」
ラクラスに一度頭を下げて、下へと移動―――秋臥と香菜の二人もそれについて行く。
一階、さっきは素通りだったが、よく見れば結構な人数がいた。
「さて―――ここは冒険者ギルド。実力さえあれば、世界で最も稼げる組織ですよ」
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