保守人
僕やるぞ、やってやる
「事実です、私が頼みました」
「じゃあ俺も冥国へ行くよ―――きっとまた、強くなって帰ってくる」
「暫く離れてしまいますね………………少し、不安です」
「ならこれを――――――」
言い、発信機となる結晶型の氷を生成して香菜に渡そうとする。
だが香菜は手を出さず、代わりに服の裾を軽く摘んで見せた。
「旅支度ならば、メイドの方々に頼んでおきます―――なので少しだけ、私に付き合ってください」
「…………ああ、分かったよ」
そのまま裾を引き、居間から寝室へと移動。
途中メイドに旅支度を任せて一時間半―――寝室の扉が開く事は無かった。
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とあるレストランの個室―――一人筋肉質な男が食前酒を嗜みながら扉を睨んでいた。
するとノック。
一言「入れ」と言うと、現れたのは前日までエルモアース領に居た、ルークであった。
「暫くか…………連絡も寄越さず行方を眩まし、どこに居た」
「父の元に―――加臥秋臥を、鍛えていました」
聖七冠というものは名誉でありながら制約でもある―――その身を粉としてクロニクルのため、延いては世界のために尽くすという制約。
聖七冠と呼ばれる者はクロニクルの名の下に徹底管理され、その日の予定から食事、所在位置までもを事細かに申告する必要がある―――だが、ルークは今回それを怠った。
現状クロニクルで神の身使いとされている、未知も多い秋臥を鍛えると言う行為を容認されるとは思わず、されど不可欠と考え、独断を通すための暴挙―――その上突如姿を見せたと思えば、要件も告げずにレストランへと呼び出し。
男が眉間に皺を寄せ、憤慨した様子となるのも仕方がない。
「ボス―――今回は、一つ許可を頂きたく来た」
「許可…………? なんだ、言ってみろ」
「自己鍛錬の許可を――――――」
「ならん」
言い終えるより先に却下。
ルークは十五の頃聖七冠となってからただの一度たりとて、鍛錬を許されてはいない―――実戦や他人の鍛錬で実力を上げる事こそあれど、自身の鍛錬を目的としてはただ一度とて。
クロニクルの指令である―――もしそれを破れば、クロニクルに所属する全ての国がルークを犯罪者と認定。
全ての聖七冠を動員し、魔王と同じ永久封印指定の存在として対処されるだろう。
「私と実力の均衡が取れている事―――それがお前と言う脅威を放任する条件と忘れたか」
「随分と、自分の成長を度外視した話だ―――昔の武人地味た精神はどこへ消えた?」
「心意気で世界は護れんのだよ」
「保守的でも世界を護れない段階に来ているんだよ」
「………………何を見た」
初めて目にする、ルークが無理を口にする姿。
男は僅かに驚きながらも状況が唯ならぬ事を察する。
「貴方の危惧していた神話の時代が再来するよ」
「何が現れた、言え」
「賊、イベリスが魔王パルステナとその息子を引き連れてエルモアース領を襲撃―――交戦の最中に女神エティシアが突如出現。僕と秋臥君で交戦するも歯が立たず、これまた突如現れた女神ラジェリスに救われた」
「歯が立たない、お前がか…………?!」
「ええ―――だからもう保守的でいい時代は終わるんだよ、ボス」
男は一度、穴が開く程テーブルを睨む。
クロニクルの戦力、その他の戦力―――声を掛けて集まる国、有事の際に侵攻してくる可能性があり、跳ね除ける事が出来る国。
世界へと考えを巡らせ、一度深いため息を溢すと残りの食前酒を飲み干した。
「飯でも食いながら、説教をしてやろうと思っていた―――だがお前には惜しい、迅速にこの店から立て」
視線をルークの方へ。
僅かに緩んだネクタイを締め直すと、抜き身の刃を魔力強化も無しに砕けそうな分厚い拳を固めてその決意を示す。
「クロニクル総裁、ルーベルト・ドリファスが! お前の鍛錬を許可するッ!」
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




