解散
「………………見逃さない、ですか?」
「おう、それはもうめっためったにしてやるわい」
「いつ迄自分が上のつもりで? 姉さん」
「事実儂が上じゃ―――試すか?」
それを聞くと、エティシアはため息を。
昔から姉のやりたい放題を見慣れ、今回もそれに呆れた様な態度だ。
「仕方ありませんね、今回は手を引きましょう―――でも、取引先は回収させてもらうのですよ」
イベリスやその他仲間を、再度白い光が包む。
今度はルークもそれを止めず、ただ不意打ちに警戒しながらも撤退を見守っている。
「では皆さんまた会いましょう。さようなら〜」
粒子となり空に登りながら言い、エティシアは消え行く―――それから十秒程経ってから、動けなかった者達が一斉に崩れ落ちる。
敵は誰一人として残っておらず、味方戦力を見ればルークは剣を鞘に戻し、秋臥は不用心に近づいて事情聴取。
戦いか終わった―――だが今回は王都の際とは違い、人死が多い。
街はマリーの魔法で元通りに出来るが人の命となれば話は別。
残された傷跡は余りにも多く、これまで以上に人々の心を深い影へと沈める事となった。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「のう秋臥よ、冥国に来んか?」
戦いの終結より三日―――街と同様、マリーの魔法によって再生されたエルモアース邸にて、未だ消えぬラジェリスが言った。
香菜を置いて来いと言われてこの発言―――まず秋臥単身の話だ。
「香菜の事ならば安心せえ、儂の旧友に声をかけて保護させるわ」
「旧友…………?」
「サレンじゃ―――アイツはヌシらの前任者で儂のパートナーじゃったからな、まあ断りはせんじゃろう」
パートナーと言うには、余りにも主従があった。
それ故にサレンの方は使いっ走りであったと認識しているが、ラジェリスの認識ではやはりパートナー。
これもまた、神特有の傲慢さと言えるのであろう。
「俺は冥国に行って何をすれば?」
「儂の魔力を注ぎ、扱える様になってもらう」
「ラジェリスの魔力を…………? 魔力量なら、充分足りてる筈だけど」
「ヌシの魔力は代替品で、体が魔力に馴染むまでのもの―――元より馴染めば、今度は儂の持つ魔力と入れ替えるつもりじゃった」
「香菜を連れて行かない理由は?」
「あの娘は、前に王都で済ませたんじゃ。至急の事だったので体に入らせて貰っての―――そのときに、儂の魂へと乗せた魔力を残して来た」
「僕だけそのやり方ではダメな理由は?」
「儂は女神じゃからの―――身体的特徴の近い女の体には入れるが、男は無理なんじゃ」
「魔力の入れ替えがこっちで出来ない理由―――冥国に行かないといけない理由は?」
「冥国はこの世で、最も神界に近き場所。故に儂の力も強まり入れ替えもスムーズに、安全に行う事が出来るのじゃ」
「………………成る程、納得したよ」
合理的―――冥国へと向かう理由で、何か不適当なものは無い様子。
だが秋臥には気掛かりがあった―――何故、香菜を連れて行けないのか。
香菜を連れて行かない理由としては充分だが、態々人に預けてまで連れて行けない理由には不充分。
それだけならばまだ違和感で済む話。
だがしかし色々と問い詰め始めた瞬間より、ハキハキと答えるラジェリスの目が泳ぎ始めた―――れこれが秋臥に何か理由があると確信させる理由である。
「じゃあ、香菜を連れて行けない理由は?」
「じゃから今言った様に――――――」
「それは連れて行かない理由だよ。連れて行けない理由を聞きたい」
ギクリと、背後にオノマトペが現れても違和感のない表情を披露するラジェリス。
なんと誤魔化そうか頭を捻るも、頭から煙を出してソファーへと倒れ込んだ。
「香菜からの要望じゃ………………! 昨晩訪ねて来ての。この世界に来て暫く、多少実力がついたからこそ無力感を感じたそうで、儂に鍛えて欲しいと言いおった………………が、生憎儂の指導は天才も無能に変えてしまうと話題での。代わりに香菜と戦い方の似た、サレンを紹介してやったわ」
「香菜から………………それは確かな話か?」
「儂神様! 嘘は吐かん!」
「じゃあ信用するよ―――一度香菜にも確認するけどね」
そう言うと、秋臥は立ち上がって退室しようと―――扉を開いて出る寸前、思い出した様にラジェリスの方へと振り返る。
「冥国に行って魔力を入れ替えて―――俺は強くなれるのか?」
「間違いなくの」
「じゃあ二時間後、旅支度をして戻ってくる―――すぐに出よう」
次回より新章です
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




