二柱ありきの
「私はエティシア―――神様なのですよ」
「エティ…………シア……………………」
呟いたのは香菜だった。
トラオムに入りただ戦い、教えていただけの秋臥とは違い代弁者の後継として学んでいた香菜だからこそ、今誰よりもこの場で早く言葉を発したのだ。
「貴女は、総司の娘ね―――ずっと見ていたわ。いつかビジネスパートナーになる可能性があったんだもの」
香菜は見ていた―――毎夜、父が美しい女性の石像に向かい祈る姿を。
ソレは紛れもなく、その石像と同じ容姿―――目の前の女は間違いなく、女神アティシアそのものであった。
「さて今日は撤退しましょうか―――イベリスも、この街を怖せて少しはスッキリ出来たでしょう?」
「腹五分目、不服だよ」
「なら今日は我慢なさい」
イベリス、パルステナ、ノエル、ゾラが白い光に包まれる。
体が次第に粒子となり、天へと昇り行く―――が、一人平然を取り戻した者がいた。
白い刃が零秒で舞う―――刃に触れると同時に光は消え、その光に包まれていた者達の体も元に戻る。
ソレでも尚動けるのは、二人のみだった。
「お初にお目にかかる、女神エティシア―――所で、敵でいいのかな?」
「場合によるのですよ」
「そう言う奴は、全員敵だった」
ルークの表情より笑みが消えた。
肉体に込める力は必要最低限立ち、剣を握り、構えを維持できる程度。
力むのは僅か零秒―――音速も光速も超えて、深くマイナスの世界へと沈み込む。
そして確かに、エティシアの首を刎ねた。
「流石は特異点―――神様でなければ死ぬ所でしたね」
「斬っても死なない敵は初めてじゃない」
刎ねられた首は宙を舞い―――そして、元の位置に着地。
皮膚、組織は瞬く間に定着して元通りに。
それと同時にエティシアの全身が、立方一糎のブロック程度に切り分けられ、それも即座に元通り。
世界最強の攻撃が、まるで意味を成さない。
「なら、こっちにしようか」
言うと、エティシアの胸が輝く。
光はすぐに広がり外部へと放出。
卵の殻の様にエティシアを包み込んだ。
「永久封印術式、狭間―――元々は魔王パルステナに使おうとしていたものだよ」
「確かにこれなら、パルステナくんを封印出来そうですね―――私を細かく斬り刻んだ際に仕込んだのでしょうか? お見事!」
「……………………今の所この世界に、これ以上の封印はないんだけどね」
困り顔で呟くルークは、僅かに冷や汗を浮かべていた。
殻にはヒビが入り崩落―――平然とした表情のエティシアの姿は、絶望と言うに正しいだろう。
その表情は変わらず、ただ壁一枚―――ルークとの間に、それは分厚い氷の壁が生成された。
「俺もやります………………ルークさん」
「秋臥君、助かるよ」
「変わりませんよ」
その声が聞こえると、氷も簡単に砕けて落ちる。
秋臥の口から溢れたのは、失笑―――笑うしかなかった。
「貴方は美味しく育ちましたね―――この世界に来て一年足らず、随分と上澄になったそうで」
「蒼燕剣ッ!」
一つ持っている物とは別にもう一つ、両手に出した蒼燕剣を手裏剣の様にしてエティシアへと飛ばす―――しかし直後、そこにエティシアは居らず。
またも秋臥の背後に移動して、首周りに腕を回して抱きつく様な体制。
それに対しルークは既に斬りかかっていた。
「貴方、少し執拗いですね」
悠然と秋臥から離れて、ルークの方向を向くと軽く手を振るう。
ただそれだけ―――子供でも目視出来る程度の速度で、特に工夫があるわけでもない軌道で。
それがどう言う訳か、ルークの零秒を上回った。
「前々より顕現しておいて良かったの―――いやはや、馬鹿しおるわ」
「………………もう来たんですね、お姉ちゃん」
エティシアの手は、これまた突如として現れたもう一柱によって抑えられた。
金刺繍のあしらわれた黒の着物を纏った、頭から龍のツノを生やした女。
秋臥はその声に聞き覚えがあった―――若い女性的でありながら、話口調は老人的。
それでいてどこか知性の欠けた様な、よく弾む喋り方をする。
この世界に来るとき、その後でも都度都度、頭の中に響いていた声―――女神、ラジェリスの声であった。
「ここは儂の世界じゃ―――ヌシは妹、土足で踏み入るまでは許そう。だがしかし! そこから先、荒らしていこうと言うならば見逃さんぞ」
寡黙な少女があなたを指した
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




