神様
他二面の戦闘が本格的に開始した頃、秋臥とイベリスは未だ様子見の段階であった。
炎遁の魔剣から吹き出される炎を払いつつ、懐に潜り過ぎない位置で徐々に攻防のペースを上げ本調子へと移行。
イベリスが放つ攻撃の合間合間に自身の攻撃を挟むことで、ペースを完全に敵に譲ることなく、秋臥の楽な場面展開を作り出している。
「このスローペースにもいい加減飽きてきたなあ………………どれ、少し強引にいこうか」
言うと、イベリスは炎遁の魔剣を消して両手に新たな二本を。
少し悪戯に笑って見せると、それを地面へと突き立てた。
「岩漿の魔剣、天登の魔剣」
「逆垂氷柱………………っ!」
点々と三十箇所程、マグマ溜りが出現。
沸騰したかに見えた直後、柱の様に噴き上がる。
マグマの柱は地上十メートル地点まで登ると、そこを頂点として噴水のように広がる。
それと同時―――秋臥の魔法により、完全凍結。
マグマは氷に覆われた、強固な石の柱と天井となりフィールドを形成。
遮蔽物が多く駆け難く、跳ぶには若干の不自由。
そんな中秋臥が先行―――蹴りの一撃で柱を砕き、その破片を続く二撃目の蹴りでイベリスへ向かい飛ばすと、それに追走するような猛速で疾走。
「蒼燕剣っ!」
武器を出すと回転させながら前方の柱を砕き、進行経路を切り開く。
「やっと本気になったね…………! 深光の魔剣!」
イベリスは刀身の光る魔剣を出すと、秋臥に向かって三度振るう。
すると光速―――秋臥の後方にある柱がいくつか砕けた。
確かに秋臥に当たる軌道―――そして読んで字の如く、光速の斬撃を飛ばしたのだ。
にも関わらず後方の柱が砕けた。
自らも向かいながら、光速を回避―――イベリスは、一つの可能性を見出す。
目の前の男は既に、聖七冠のレベルに達しているのではないかと。
「まさか、君は………………!」
「その目で確かめろ」
瞬間、三度の斬撃がイベリスを襲う。
三撃連続ではなく、全く同時の斬撃が三つ同時―――零秒である。
イベリスは深光の魔剣によっての斬撃速度補助と、先読みによる防御の応酬で対象。
零秒に達せずとも、零秒から身を護って見せた。
「そうかい、君も怪物かい…………!」
振るわれた深光の魔剣を、零秒で余裕を持って紙一重で回避―――だが、肩より血が吹き出す。
回避の直後、ほぼゼロ距離で斬撃を飛ばしたのだ。
この戦い初のダメージ―――それを全く意に介さず、吹き出す血を凍結させて荒い刃とし不意の一撃を放った。
「幻牢の魔剣」
「ッ………………!」
血の刃はイベリスの形をした霧を裂いて割れ落ちる。
いつの間にか片手に握られていた幻牢の魔剣で、いつのタイミングか実態と幻覚を入れ替え―――深光の魔剣が斬撃を飛ばせると言う特性を活かしたわけだ。
「ああ、ああ、君を殺せない事、本当に忌々しく思うよ―――いい加減、契約を更新しなきゃね」
「契約………………? 裏に誰が居る」
「答えると思う? いや、まあ良いけどね――――――もう来る」
雛姫の時と同じだ―――イベリスが言った直後、異質な魔力の片鱗が現る。
マグマが固まった柱と天井が全て灰となり落ちる。
空が破れた―――そして、何かが現る。
純白の髪、僅かに幼く、知的な印象のある整った顔と深い黒の瞳。
身長は三メートル程あるが、細身なのと眼鏡のおかげでか弱く見える。
一糸纏わず全裸の、女の様な人形の何かだ。
「――――――アスター、目的は達しましたね」
「…………僕をその名で呼ぶな」
「では何と?」
「何度も言わせるなイベリスだ」
ソレは僅かにイベリスと言葉を交わすと、秋臥の側へと歩み寄る。
秋臥は何もしない―――否、出来ないと言うのが正しいだろう。
攻撃、防御、警戒―――近付かれている事に気付く事すら出来ず、ただ立ちすくすくのみ。
気づいたのは真っ正面より、しゃがんだソレが胸を押し付ける様に秋臥へと抱きついた数秒後であった。
「ついに、触れましたね―――加臥秋臥」
「……………………なっ!」
慌て周囲五メートルに氷を放つが、その頃にはソレは離れており。
秋臥の後方に立ち、放たれた氷の上に何事も無さげに座っていた。
「折角です、皆も呼びましょうか」
次の瞬間、各々戦闘中であった筈の香菜、ガレッジ、ルーク、ノエル、パルステナ、それに街の外に居た筈のマリーやベネティクト、ゾラまでもがそれぞれシャッフルされた立ち位置で現る。
秋臥側勢力だけではない―――全員が、何が起こったのか理解していない様子だ。
「役者は揃いましたね―――私はこの日を待っていました」
ソレは立ち上がると両手を広げて慎ましやかな胸を張り、演説する様に語る。
「世界の王たる者、魔王、異世界の来訪者、特異点、勇者―――これだけのピースが一面に解するなど、超レアな事です。私は嬉しいのですよ」
疑問は多くあるが、誰一人として言葉を発することは無い―――無意識に、そうするべきだと本能で判断しているのだ。
「名乗り遅れました―――と言っても、必要はないでしょう。言わずとも分かっているでしょう? 私を見たその瞬間、私が誰か気付いたでしょう?」
元々ソレと面識があるのはこの場でイベリスのみ―――だが確かに、皆がソレの名を理解した。
その上で、ソレは名乗る。
秋臥と香菜からすれば忌むべき、その名を。
「私はエティシア―――神様なのですよ」
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




