狼王
魔人族の体というものは、ただでさえ強靭である―――素の状態が人間ので言うところの魔力で強化した程度の平均値に当たり、更に戦闘体制に入れば魔力強化なども加わり大幅な強化を。
これが魔人族の平均値―――その中でも魔王、パルステナは別格の存在である。
その息子、ノエルもまた然り。
先の秋臥とルークに与えられた攻撃はダメージとして響いておらず、良くて衝撃。
今目の前に居る香菜とガレッジとの戦闘に、何ら支障はない。
「香菜さん、なんか大技ないの…………?!」
「今使った所で有効打になるかどうか…………貴方こそ何か無いんですか?」
「僕ね………………どうかなリア、何かある?」
程々の距離を保ちながら、ノエルに対する攻撃を挟みつつ案を探るが、圧倒的かつ単純なフィジカルの前に成す術は無く。
ガレッジは自身のショートソードをノエルから逸らす事なく、視線だけを右の上空へと向けて尋ねた。
そこに居るのは泉の精霊、リア。
世界でただ一人、勇者のみが契約を結べるとされている存在であり、ガレッジの契約精霊だ。
「視界に映る全てを、沈めて見せましょう―――それはもう、ざぶーんと」
「街を守らないといけないんだ………悪いけど、却下。別のやつないの?」
リアは不満気に唇を尖らせながらも、空に十二の水滴を浮かべ、それを高速射出。
それが一秒に百回の勢いでノエルに向かい降り注ぎ、その身を襲う。
だがそれを甘んじて受ける訳もなく―――ノエルは喉に魔力を集め、吼えた。
魔力は声に乗り、衝撃波となって水滴を弾き飛ばす。
口内に残った魔力を吐息と共に吐き出すと、荒だった気を落ち着かせるように目を細め。
両の掌を、拝む様に合わせた。
「――――――概念武装、狼王」
「リアッ!」
「折重…………!」
ノエルが言うと同時に、ガレッジと香菜は命の危機を感じ取った。
ガレッジはリアに命じ、超高密度の魔力を孕んだ水の壁を生成。
香菜は折重にて鋼糸を五重にして出して。
それぞれ最善の防御を出した結果、それが容易く砕かれる―――その要因は強奪や、間合いを無限としてその内に入った物を全て斬るような剣などの種があるものではない。
ただそれが現れた余波、副産物とも言えよう―――本当に、ただそれだけなのだ。
それだけ強大な力なのだ―――概念武装、狼王。
読んで字の如く、王たり得る力を授けるものだ。
「香菜さん、無事…………?!」
「ええ何とか―――それよりも、警戒を」
ノエルが一歩二歩と進むだけで、二人の心拍は跳ね上がる。
先程までが雪山を駆ける飢えた狼だとすれば、今のノエルは満月を背に下界を眺める群れの長が如く。
激しさこそ隠れど、悠然としたその姿には確かな王の素質が見えてた。
「世界が澄んで見える、アイディアが止めどなく溢れ出す―――これが、王の力か」
ノエルの手足に、黒い魔力によって形作られた鎧が纏わり付いている。
先端は獣の爪のように形作られており、その姿以上に広大な間合いを魔力によって補われている。
「さて、貪ろうか」
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ラジェリスはこの世界を創るに於いて、生き物をプラスとマイナスに分けた。
呼び方自体には特に意味もなく、対極のもの、バランスを保つ役割を持つものとして。
それぞれの代表者を選び、力を与えた―――それぞれ概念武装、獅子王、狼王。
唯一ラジェリスが自ずと作り出した、世界を破壊出来るアイテムである。
自分は作っただけ―――あとは陰ながら支え、ときに罰を与え。
だが最後の在り方は、その世界で生きる者達に決めさせようと思ったのだ。
それは幾度となく戦争に利用された―――幾度となく世界を滅ぼしかけ、幾度となく復興に貢献して。
いつしか名を変え姿を変え性質を変え、双方共に神器と呼ばれる様になっていた。
変わらぬ事と言えば、その在り方のみ―――世界の王と成る素質がある者の元に発現する。
それだけは、創世より変わらずに残っていた。
僕の高校生活も佳境ってかんじ
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




