回帰
僕が彼と出会ったのは、イベリスと名乗り始めて百年が経った頃だった―――彼は、一人の王に命を捧げていた。
彼は自分一人で王を支える事に不安を感じていた。
エルフの中でも若輩者の自分が、いずれ世界の王たる主人に相応しいものか―――他に適任が居るのではないか、自分よりも遥かに優秀な誰かが居るのではないかと。
僕は彼に提案をした―――チームを組織してはどうかと。
数人の幹部と多くの雑兵を連れ、それを君が指揮し、まるで君の一部の様に操ってみればどうかと。
僕の提案は彼からして素晴らしく見えたらしく、世界中で同志を集め、指の数だけ幹部を用意し、瞬く間に彼は世界で最も有名な犯罪者となった。
暫く会わず、再会したのは彼の王が死んだ頃―――王は必ず甦る。
この地に再臨されるのだ、それを果たす事こそが私の生きる意味なのだ。
そう言い、僕に助力を求めて来た。
都合が良かったので口車に乗ってみたが、彼の言う王とは魔王の事であった―――余計に好都合。
これから僕が起こす事には、恐怖が必須。
元々は僕自身が恐怖の種になれば良いと考えていたが、元々悪名名高き魔王の復活ともあれば、民主の抱える恐怖は想定以上のものとなると思ったんだ。
だが、面倒な奴らが居た―――聖七冠だ。
奴ら尋常でなく強い。
彼の願い通り魔王を復活させようと、市民にはただ一人の死者も出さずに対処しやがる。
特に問題なのは上位二人の、マリー・ジェムエルとルーク・セクトプリム。
先ずマリー・ジェムエルだが、奴の前では迂闊に戦力を振るえない。
僕の魔剣新生は、触れた事のある魔剣を作り出せる魔法。
つまり僕の経験ありきで漸く意味を成すものだがその他、魔具模造や魔具解析は奴からしても有用。
一度使ってしまえば、僕以上の精度で使い熟される可能性がある。
次にルーク・セクトプリムだが、奴は単純に強過ぎる。
出してから過剰な戦力だと思っていた雛姫を、不意打ちとは言え瞬殺―――僕と魔王、それに彼が協力した所で敵うビジョンが見えない。
奴ならば神話の時代に―――彼女と僕が生きていた時代に生きようと、天下を取れていただろう。
この二人以外を見ても、奴らはおかしい。
同じ時代に生まれ、肩を並べていい様な人材ではないんだ―――まあ、それでも僕がやる事は変わらない。
世界をやり直す―――その為なら聖七冠程度、僕は何度でも乗り越えて見せよう。
そう言えば、もう一つ壁があった。
エティシアの言っていた異世界からの来訪者。
女の方はさして問題ではないが男の方―――加臥秋臥が厄介になりそうだ。
今はまだ軽くあしらえる程度だが、近いうちにでも聖七冠に届く可能性がある。
エティシアとの契約さえなければ殺してしまいたいが………………ああ、歯痒い。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「……………………ゾラ」
「考え事か? 余裕だな」
「まあね」
ゾラの敗北と同時に、二本の魔剣で秋臥の攻撃を対処しながらイベリスは呟く。
戦場は別れた―――秋臥とイベリス、ルークとパルステナ、香菜&ガレッジとノエル。
イベリスの考える最悪のシチュエーションは、とっととパルステナを倒したルークが他のメンバーの応援に駆けつける事である。
「安心しろよ、そんな事は起きない」
見透かした様に秋臥は言う。
攻撃の手を緩める事はなく―――だが、魔法を使う様子はない。
「大体考えてる事は分かるよ―――ルークさんは来ない。お前は俺が倒す」
「前と喋り方変わったけど、キャラ変かな?」
「原点回帰だよ」
この半年、秋臥が行っていた鍛錬はひたすら手合わせ―――最初はガレッジと、途中からアリスが加わり、最終的には呼び出されたルークと一対一。
最初は魔法を駆使しながら体術と組み合わ戦っていたが、次第にその量は減り。
中盤には動きの補佐と武器の生成のみ。
終いには身体能力の強化以外で魔法を使わなくなっていた。
それが魔法を捨てた訳では無いと気付いていたのは、長年連れそう香菜のみ。
トラオム時代の秘密主義が戻りつつある―――日に日に鋭くなる感覚と、それに組み合わされた魔法。
それかどれだけの戦力になるかを味方にすら開示しない姿は、まさに回帰であった。
イベリスはこの話を書く上で主人公よりも先に作ったキャラだったので、100話にこの話を持ってこれでよかった。
(更新状況とか)
@QkVI9tm2r3NG9we(作者Twitter)




