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四十五億と少しか一日 

 僕は、有体に言ってしまえばモテた。

 自ら進んでアピールするわけではないが、昔からご近所さんやら知り合いやらに顔が良いと言われ育ったので、多少の自覚はある。


 人と比べてテンションが高いわけではないが、コミュニケーション能力もある方だと思う。

 現に男友達、女友達も少なくない。


 しかし、モテはするものの言い寄られる事は無かった―――それは彼女、巴山(はやま)香菜(かな)の存在あってのことだと思う。


 彼女というのは、女性を指す呼称ではなくそのまま立場的な意味での彼女。


 香菜は他よりも少々―――目を見張る程度には独占欲の高い人間であった。



秋臥(あきね)、そろそろ帰りましょうか」



 香菜が言う―――黒髪のポニーテールを揺らして、少し頬を赤らめて。


 秋臥とは僕の名だ―――加臥(かが)秋臥(あきね)

 臥という珍しい漢字が名字に使われているので、折角だからもう一個増やしておこうというアホな親の考案の元付けられた名だ。



「あ…………ちょっと、提出物あって職員室行くから、先帰ってた方が良いかも」


「待ちますので一緒に帰りましょう―――ダメ、ですか?」


「了解、すぐ済ませるよ。先に外行って待ってて」




 十月上旬―――微かに肌寒さを感じ始めた頃。


 僕が通う高校一階、職員室側廊下に、一台の青い車が突っ込んだ。

 運転手は、昔この学校に通っていた元生徒の母。


 酒を飲み、脳内の記憶が巻き戻ったか息子を迎えに行かねばと運転をして、この有様。


 その元生徒は、高校生になって親の迎えが必要という事は体の弱い生徒だったのだろうか?


 僕には関係のない疑問だ―――なんせ、今後一生確実に関わる事のない人物。


 十月九日、十六時三十二分―――僕は車に潰された。

 青いバンパーを赤く染めて、壁と車に挟まれ死んだ。


 そして、生涯を遂げた―――これまで人には言えない荒事も経験して、この世界の中でも稀有な道を歩んだ生涯を。

 あと、一秒でも遅ければ。



 

⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘ ⌘




「とっ、言うわけだ―――どうじゃ? これがヌシの死因、理解出来たか?」



 何もない空間、秋臥は古風な喋り方をする女と共にいた―――体はマネキンの様で性別を見分ける要素はなかったが、声は女だ。

 

 その女は秋臥の死因を面白そうに話した後、それも後一秒遅ければの話だが、と付け足した。


 それの意味が分からず首を傾げる秋臥を嘲笑うかのようにニヤリと表情を変えた女は、その口に出していない疑問に応える。



「さてではまず、自己紹介からにしようかの? 儂は神様! チョー凄いヤツじゃ!」



 自称神様は、ハイテンションで言った。



「そんで神様、新しい世界作ってみたんじゃけど所々調整が必要でなぁ―――ゲームで言うところのバグ要素的なのが結構あんじゃよ。そこでヌシっ! 今年入って百万人目に死んだヌシに、現地行ってお手伝いをしてもらおうと思うっ! 神様のサポート役就任、おめでとうっ! ぱちぱちぱち〜!」



 神は拍手をして、一人で盛り上がる―――だがそんな事よりも、秋臥には気になる事があった。

 

 親指で背後を指して、それを問う―――何故、この様な事になっているのかを。



「僕が死んでここに居るのはともかく、何故香菜がここに…………?」


「へ…………? 何でお前ここに居るんじゃ?!」



 秋臥の背後には、微笑み立つ香菜が居た。

 それを説明させようと問うた秋臥の想定に反して、神もその存在に驚く。


 慌てて香菜へと駆け寄ると、少し眉間に皺を寄せて全身を観察―――そして、何か面白い物を見る視線を秋臥へ送った。



「マジか、マジか〜! この娘、ヌシに依存してるって理由だけでここに居おるっ! 魂レベルで依存して、ヌシの命に擬似的にリンクしてるんじゃっ!」


「どう言う事ですか…………?」


「だからぁ、ヌシが死んだからこの子も連鎖的に、擬似的に死んだのじゃよ!」



 そう言って爆笑する神―――秋臥が理由に驚き香菜へと目をやると、当の香菜は悪戯に笑い、小さく首を傾げた。



「つい、来てしまいました」


「ついって、ええ……………」



 苦笑いしか出来ない秋臥より先に、大爆笑していた神様が冷静を取り戻す。



「あー、笑わせてもらった―――この娘、どうする? 戻すか? それともヌシと一緒に、儂の作った世界へ連れて行くか?」



 死が二人を分つまでとは言うが、死してなお離れぬ依存―――それに免じて神は一つ提案をした。


 香菜の後追いならぬ連動に驚き過ぎて、神の言う新しい世界やサポート役と言う話はもはや冷静に受け入れた秋臥は考える―――香菜をこれから、どうするべきかと。

 


「その世界ってのはどんななんですか? 治安とか、文明力とか」


「そうじゃの…………稼働させ始めて時間が四十五億年と少し、人の生存がある程度安定して可能なレベルの文明力ではある―――治安、世界の危険度はこの世界とはまあ段違いじゃ。山賊海賊は流行っておるし、ヌシらの知るゲームなんかに出てくる魔物もおるし。勿論ある程度生きる力、戦う力と必要最低限の知識は儂がヌシらに与えるんじゃが」


「じゃあ、戻してください―――元居た世界が少しでも安全なら、そこに」



 即決―――秋臥とて恋人に対する未練はあるけれど、多少の危険ならば香菜一人程度護れる自身と根拠はあるけれど、それでも安全が一番である。

 共に居たいという意志と香菜の安全を並べれば、天秤に掛ける時間すらも惜しい。



「香菜を、元の世界に――――――」



 戻してくれと途中まで言い掛けた所―――背後より口が塞がれる。

 振り返れば、そこにはやはり微笑む香菜が居た。



「私は()きますよ―――貴方の居ない世界など戻された日には、即日首を切って見せましょう」


「お〜お〜、熱々のアベックじゃのお〜」


 

 そう言って冷やかしの様に、神が口笛を吹く。


 安全な場所に居てもらいたいのに、生きてもらいたいのに首を切られては本末転倒。

 香菜の表情は冗談を言っているようなものではなく、さも当然の事を告げた様子―――秋臥は説得に挑もうとするが、香菜はそれを頑として受け入れぬといった意志を示す様な変わらぬ微笑み。

 

 一つため息を溢すと、頭の中を切り替える。


 保護から守護―――別の世界、向かわされる先異世界で香菜を護り抜くという意識へと。



「それじゃあ、一緒に行きます…………!」


「青春じゃの〜」



 言うと、神は指先で空間に長方形を描く。

 するとその内側が光を放ち、奥行きを持ち始めた―――まるで、扉の様に。



 「さあ、これを潜れば異世界じゃ! やるべき事は後々天啓もしもしするから、それ以外では楽しくボイミツガールしてしっぽりしてれば良い!」



 神の手によって指し示された道―――秋臥と香菜は一度目を合わせて頷き合うと、真っ直ぐ光の穴へと向かう。



「さあ、行けっ! その世界はヌシらを完全していようぞっ!」



 二人を光が包む―――目を瞑ってしまうような閃光の先、次に見えたのは限りを知らずどこまでも広がる、草木の豊かな広大な大地。

 

 二人が産まれた世界の様なアスファルトの道も、空を覆う建物物も見当りはしない。


 そこには、新たな世界が広がっていた。

久々の投稿です!

やっぱりあらすじは苦手。


しばらくお休みしてたので人にお見せする恥が生き返っていますが、頑張りますので読んでいただければ幸いです!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] プロの人が書いているのかびっくりしました。 [気になる点] 無し [一言] 応援しています。僕の小説は下手です。
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