金稼ぎって難しい
無一文なんだよな
「買ってしまったぞ・・・」
「良い買い物したね!」
ゲンナリするカイとは対照的にホクホクと満足げな顔をするソフィア。
彼女の可愛らしい笑顔を眺めながらもカイは思った。
(本気でお金稼ぎについて考えるべきか?)
今まではなんやかんやでお金がなくても生活できていた。
不便なことは全て「趣があってよし」という事で片付けていたからだ。
しかし今回、コンロという器具を買った。器具を購入したということは、今まで無理やり納得させていた「不便さ」に納得がいかなくなったという証拠だ。
つまり、これからはソフィアの物欲が一気に増えることが予想される。
そもそもソフィアという少女はかなり気分屋なので、「我慢」という類の行動はすごく苦手なのである。
「今日、街に着いた時に話していたことなんだが、やっぱりお金を稼ぐ必要はありそうだな。」
カイがおずおずと言った具合に話題を振ると、ソフィアはうんうんと頷いた。
「そうだよ!絶対にいるよね!」
お金が極限に無い生活にしているのは自分が原因であることなどすっかり忘れて、ウキウキとお金稼ぎの案を出す。
「さっき言ってたお寿司は無理だろうけど、何かしら料理屋を開くのはどう?」
「あんなに人口の少ない端っこの住宅地に食べに来る物好きはいないと思うがな。」
「そんなことないかもよ?まずはやってみなきゃさ」
「うーん、じゃぁやるとしても何をする?」
「流石にあそこでは魚は取れないからね、焼き肉とか?」
「雲虫の肉をお前は切れるのか?」
「・・・無理ですねぇ」
この世界では雲虫の需要は運送業にとどまらない。彼らの繁殖力や成長速度、臭みが少なく脂の乗った肉は実に多くの国民に愛されている。あれ程雲虫を恐れているソフィアでさえも調理されて焼かれている雲虫を美味しそうに食べているのだ。(生肉の状態だと無理であるが)
なのでその雲虫を調理できないソフィアに料理人は致命的だ。
「じゃあ、ぼ、冒険者?」
「あんなところに依頼があると思うか?」
「じゃあ、うーん、あれ?何もできなくない?」
「あるだろう。家があるんだから家内清掃の仕事とか、ちょっと国から出て禍獣(エアルによって突然変異した獣の事)を買って肉や皮を売るとか、それこそ褒められた仕事では無いけど禍獣の宙臓(エネルギーであるエアルを溜め込む臓器の事)を郵送で武器屋にでも売りに出せるしさ。」
「おお!結構有るんだね。」
「一体この世に何種類仕事があると思ってるんだ。」
ソフィアはうーんと唸る。
「何種類とかは知らないけど・・・禍獣討伐は嫌だなぁ」
「そうだろうな。」
「家内清掃とかにしよっかな」
「それが良いと思うぞ」
カイは心の中で、一国の王が国民の家の掃除をしているっていうのは流石にいかがなものか、とも思ったりしたが、あえて何も言わなかった。
これは彼女が決めたことだ。それに着いてとやかくいうような無粋さはカイにはない。
彼女のやりたいようにやらせてあげること。それが彼の願いなのだから。
「さ、もう一度雲虫に乗るぞ。」
「ほえぇぇぇ嫌だよぉ〜」
「エアスト取られたのはお前なんだから我慢しな」
「うえぇぇ〜、あいつ本当に許すまじぃ・・・」
「だいたいどうやったら取られるんだよ。あのエアスクは個人認証させてるだろうが。」
この世界の多くの機器は、そのほとんどが「個人認証」というシステムを導入している。それがどういうものかというと、全ての人にはその人独自のエアル(エネルギーの一種)を有しており、そのエアルを読み取って機器に内蔵されているオートロックが外されるという便利な仕組みなのだ。
にもかかわらず、ソフィアがエアストを盗まれたということは、機械がオートロックをかけれないほどにソフィアが近距離におり、その真横で盗人に盗まれたということになるのだ。
「なんで気づかないんだお前は。」
カイは言っていて「気付かないだろうな」、と心の中で頷く。
見た目も考え方もほとんどが若々しいソフィアだが、彼女の不注意だけはちゃんと実年齢相応しいほど多かった。
「いや〜ほんとびっくりだよね〜」
「ちなみに今は何処ら辺にエアストあるのか分かってるのか?」
「んー、ちょっと待ってね。」
ソフィアは右腕の袖をグイッとあげる。彼女の右手首には腕時計のような物が装着されており、ソフィアが左手でエアル(エネルギーの一種)を込めると透き通る様な青色の光を帯びる。
腕時計もどきを見ると、「時刻」「位置」「レシピ」「日程」「メモ」「記事」「お買い物」「予約」という文字が空中へと浮かび上がり、浮かんだ青色の文字を指でなぞれば横スクロール式で選択できる様になっていた。
ソフィアは文字群の中の「位置」を選択すると、登録されていた「エアスト」を見つける。
「あれ?なんか結構近くにあるみたいだよ?」
「じゃぁ、盗人もこの街に来てたって事か」
「行くよ。コンニャロォー、絶対とっ捕まえて自警団に突き出してやる!!」
ソフィアは意気込むと、割りだした場所へ向かって走りだす。
アボドレアの街は、面積こそ広いが、建物が巨大な物ばかりであるお陰で道は単調になっている。
だから地図上で見れば迷うことなどそうそう無いのだが、
「あれ!ここ何処!?」
「予想を裏切らないな、ほんとに」
オロオロするソフィアにカイはため息をこぼした。
けれど、この街は本当に通行人で溢れかえっているので、迷うのも仕方がないとは思える。
「え!?待って!」
途端、ソフィアが叫ぶ。
何事かとカイは近づくと、彼女はグイッと腕時計風の経路検索機を見せてくる。
「見て!向こうからこっちに近づいてくる!」
「それは歩いてか?それとも運転してか?」
「高さが私たちと同じだから、これ、普通に歩いてるよ!」
「つまり、盗人とご対面って訳か。」
地図が示す方へと2人は目を向ける。
人混みで溢れかえる中、着々と近づいてくる。そして、盗人の正体を見たとき、2人は思わず驚きの声を上げた。
それでも頑張って生きていく