アボドレアの町は暑い
さびぃ
ソフィアの耳に、ワァァァという熱のこもった声援が聞こえてくる。
「もしかしてついた?」
カイに聞くと、彼はため息混じりに返事をくれる。
「自分で見ろと俺は言いたいんだが。」
「まだ無理よ」
即答した。彼のいう通りソフィアだって見れるものなら自分で見る。それができないから彼女は困っているのだ。
「着いたよ。アボドレアだ。」
「ようやく降りれる。」
「次から目隠し持ってきた方が良いなこれは。」
「その通りだね。」
もすでに長時間身体中の筋肉を使い続けたせいで、全身がクタクタになっている。
これがまだ帰りもあるのかと思うとしんどくて堪らない。
「いっそのこと帰りは俺が気絶させてやろうか?」
「まじめにお願いするかも」
冗談のつもりで言ったであろうカイは、ソフィアの真顔を見て苦笑いを浮かべた。
「まぁ、なんだ。やっと到着だぞ。お疲れ様。」
「カイ?」
「あ?」
「おんぶ」
「・・・・・・」
青年はあからさまに嫌そうな顔をした。
「80になってお前・・・いや、だからこそか?」
ソフィアにとっては物凄く失礼なことを言われているが、それでも手を伸ばしておんぶを求めた。
仕方がなかった。
もうすでに彼女の前身は力の抜きかたを忘れたように強張り痺れているのだ。降りたいのは山々でも、体が全くもって言うことを聞いてくれないのである。
「ガイィィ」
涙ぐみそうになりながら必死に助けを求めると、さすがの彼も折れたようだった。
「分かったよ。でも、俺たちは確実に変な目で見られるからな?」
「でも、動かないよぉ」
「はいはい、仕方がねぇな」
悪態を吐きながらもなんだかんだでカイは彼女の裏太ももと背中に手を回す。
彼女は細身の体をガチガチに固めていて、せっかく綺麗な顔をしているのにくしゃっと眉間を寄せている顔を見ると、カイは思わず吹き出しそうになる。
彼の身体は人並み以上に筋肉が付いていることもあり、女性を一人抱える事は造作もない。
特に力む動作もなく軽々と持ち上げると、雲車からそそくさと降りる。
「ありがとうよ」
雲虫の首元にぶら下がっている貯金箱にメダルを入れるとカランっという音がして、箱からキューブ状のお菓子のようなものが出てくる。
雲虫はそのキューブ状のお菓子を食べるために人を運んでいるというわけだ。
雲虫はモニュモニュとお菓子を食べながら、また木の上にそそくさと登って行った。
「さ、行ったぞ?」
「あ、ありがと」
ソフィアがようやく目を開けたので、ゆっくりと足先から下ろした。
彼女はまだフラフラとしていたので、手で支えて上げつつ、ふと目を周りに向ける。
「まあ、目立つよなぁ」
道ゆく人々がチラチラとこちらを見ていた。
当たり前である。いくら人の多い町であったとしても、乗り物から女性をお姫様抱っこしながら降りて来る男などそうはいない。
通行人の中には、可愛らしく小さな兄妹が二人の真似をしてお姫様抱っこをしている家族すら見えた。
その子供たちの無邪気さには思わず頬が緩みそうになるが、その真似をされている当人たちにとってはたまったものではない。
カイはせめて顔だけは赤くしないぞと、体の血圧を冷ます様にフゥゥゥっと大きく深呼吸した。
「よし。さぁ行くか。」
即座に気分を切り替えてソフィアの方を振り返ると、
「う・・・うん」
彼の努力虚しく、顔を真っ赤に染めた女性が、分かりやすくモジモジと立っていた。
「す、凄い見られてるね・・・」
「ああ、お前のおかげでな。」
せめて堂々としてくれ!という言葉をグッと飲み込んだ彼は、ソフィアの手をパシっと掴むと、そそくさと走ってその場を離れて行った。
「暑いね」
「おかげでな。」
ここは通称「炎の都アボドレア」
火山が近くにあることもあり、温泉や焼物の家具、食べ物が豊富な町だ。なのでこの町の体感温度は自分達の家があった「オレイシア地区」よりもはるかに暑い。なのでそんな中で走れば体が熱くなるのは間違い無かったのだが。
「あ〜、ったくよぉ!」
カイが顔を真っ赤にしているのは絶対に町のせいではないだろう。
顔を真っ赤にしながら二人は小走りに歩を進めて行ったのだった。
あちぃ