ただいま
よってらっしゃい見てらっしゃい
「ああ〜疲れたぁ」
「おお。お帰り」
「やっぱり怒られたよぉ」
「だろうな」
家の中で居間のようなところに座っている青年、カイは知っていたと言わんばかりに平然と答えた。
「うう〜、作物の不作対策なんて、お隣の国のおかげで分かるわけなんだって〜」
先程から帰宅してトボトボと家の中に入ってきた女性、ソフィアは口をこぼす。
彼女は頭ガックリと落とすと、肩までかかる銀色の髪の毛のせいで、そういうお化けの様になっている。
「なんて言われたんだ?」
「統治者の自覚はあるのかって」
「ふぐっ」
カイは予想の斜め上の答えに思わず吹き出した。
「笑い事じゃないんだけど・・・」
彼女は不満げに頬を膨らませた。
「いや・・・すまん、でも、ハハハ・・・うん。世の中には、国民から説教される国王もいるんだなーと」
「・・・・・・」
ソフィアは海のように深い青色の瞳をスッと細めた。
そして彼女の小さな手を、家に一つしかない机に叩き付けた。その時机からはバンっという音と共にミシ・・・という何か危ない音がした。
「それをいうなら!そもそもこんなボロ家で生活してる国王の方がずっとおかしいでしょ!」
ソフィアは家の台所の方を指差した。
それを見ると、あるのはキッチンというよりは土間に近く、一般家庭は必ずと言っていいほどに常備されているはずのエアル式コンロ(この世界でのコンロ)すらもない。
「今どき薪で直接火を起こすなんて、もはやここで暮らしてから始めてやったよ!」
「でも楽しんでたろ?」
「最初はね!でもさ、やっぱり便利なものを使おうよってなるんだけど・・・」
カイはうーんと唸る。
実は彼は、エアル器具(この世界での主流の家具等)をそれほど使い慣れていないのである。
なのでむしろ太古昔のアナログ方法の方がまだしっくりくるという理由から、あえてエアル式コンロは買っていないのだ。
とは言え、同棲者が不満を感じているので有れば、改善しないわけにも行かない。
青年はコクリと頷き、コンロ購入について前向きに考えることにした。
「分かった。ソフィアが困るならこの形式はやめよう。コンロ買いに行くぞ。」
言うと、彼女は少し目を見開く。
それからパッと嬉しそうな顔を一瞬見せると、すぐにまた不満げな顔に戻る。
「コンロ買いに行くのは大賛成なんだけどさ、それならさ・・・、もっと色々な『足りてないもの』も買いませんか?」
彼女の目はキョロキョロと家の中のものを隈なく見回す。
きっと彼女にとっては不満の種になっている『家具』達が沢山あるのだろう。
カイはソフィアの視線に引きづられるように辺りを見渡した。
「なるほど確かに。生活水準向上のためには必要な機材が沢山あるだろうな、この家には。」
「そうそう、だからこの際にさ〜」
「却下だ。」
「・・・なんで!?」
ソフィアは裏切られたと言うように声のトーンを吊り上げる。
青年はハァと短くため息をつきながら理由を答えた。
「簡単だ。家にはお金がねぇだろが。」
「国王なのに、お金無いんかーい!」
「そんななんでやねんみたいに言われても」
自分達が何者であろうと、なにをしていようと、無いものは無い。
そして我々に特に無いものがあるとすれば、それは『お金』であったということだ。
けれども彼女は諦めずに尚も食い下がる。
「でもさ、コンロは買えるわけじゃない?だったらさ、もう二つか三つ、できることなら五つや六つくらい買えるじゃないかな?」
「無い袖は振れないんだぞ?」
「・・・そんなに?」
青年は頷く。
「そんなにうちの袖って短かったっけ?」
「逆に聞くが、俺らがどこでお金を得ている想定なんだ?」
「・・・確かにぃ・・・」
がくりと、少女は両の手を床につけた。
彼女は先の見えなくなった無一文のように、床を眺めて項垂れている。
「うわぁぁぁ、お、お金ぇぇぇ・・・」
青年は彼女の耳元で囁く。
「どうする?買うか?買わないか?」
カイとしては本当は買ってあげたいのである。
けれど先ほども言ったように、無い袖は触れないのがこの世の常だ。
ソフィアはうーんうーんと悩んでいるが、少ししてようやくハァとため息を着着ながら決心したようだった。
「買いに、行きます・・・」
「ああ、行こう。コンロだけしか買えないが。」
「うゆー」
これから久しぶりのお買い物デートの開始である。
等の本人達は、気が気じゃ無いだろうが、とりあえずこれからデートに行くのであった。
うゆー