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第6話 進級直前のことだった

 『ユウヤと練習すれば、俺は成長できる』と思うように、ユウヤも『俺と戦うことでメリットが生み出せる』と思ってもらえるように、連日連夜、部活動で切磋琢磨した。そして、一か月もしないうちに、練習の成果が出始めた。


 ある日のバスケ部対抗戦のこと、大番狂わせが起こった。俺とユウヤが即席チームで仲間となり、上級生との試合が組まれた。そこで、普段から練習していたコンビネーションが嘘のように決まり、大金星を挙げたのだ。


 他のバスケ部員に目もくれず、質の高い鍛錬を積んだことが実った、そう実感して、興奮しながら二人で喜びをわかち合った。


 でも、一歩目から間違っていた――成長が二人を引き裂くだけでなく、俺の前からユウヤが姿を消すことに繋がるなんて、この時は思いもよらなかった。


 タクミとソウスケは、俺の友達であり、友達ではない。俺たちのことを敬遠していた彼らは、あの輝かしき対抗戦の後、ユウヤと交友関係を持つようになった。それがきっかけで、ユウヤの友達である二人とも練習をするようになり、俺も表面上ではあるが友達になった。


 二人のことを、言葉を選ばすに表現するなら、『ユウヤに悪影響を及ぼすウイルスのような存在』だ。避けられていたから揶揄しているのではなく、事実、例えたような連中だった。


 タクミ、ソウスケの二人は、バスケが好きではない、らしい。訊いてもいないのに、ことあるごとに強調して言うのだ。


 当初から、下衆の考えは察しが付いていた、『バスケ部に属している、というステータスを武器にして、女生徒にモテたい』とか、そんなところだろうと。確証はなかったけれど、練習をサボるようになり、ユウヤを女遊びに連れ出したのは、何を隠そうあの二人なのだから、予想は的中したと言っても差し支えないだろう。


 無理強いはしなかったけれど、直接ユウヤに考えを訊いたことはあった。


「このところ部活に来なくなったな」


 ユウヤに以前のような笑顔はない。害虫に蹂躙されたのか、目を背けたくなるような卑しい笑みを浮かべている。


「日常的に練習しても、今じゃ成長も感じられない」


「俺もそう思う」


「それなら、ミナトも一緒に――」


「初心者の頃は、覚えることが沢山あって、目に見えて成長を実感できる。けれど、俺たちのような上級者は話が違う。日々の積み重ねがあって、少しずつ、一歩ずつ、着実に前へと進んでいくことでしか成長できない」


 友達と対立する――声が震えてしまうほど、抵抗を感じるものだった。だが、ここで発言しなければ、俺は自分を恨むことになるだろう。


「まさか忘れてないよな? 上級生に競り勝ったあの対抗戦のことを」


 そう続けて言うと、ユウヤは露骨に顔をしかめてみせた。


「……もちろん覚えているさ。ただ、あの頃から感じていたんだ、『向いていないことにトライするよりも、如何に楽をするかの方が大事なのかもしれない』と」


「何でそうなるんだよ! 先輩に勝ち越せるなんて……滅多にないことなんだぞ! むしろ、あの試合がきっかけで、さらにモチベーションが――」


「上がるかよっ! 上がるかよ……チームプレイが決定打になって、試合を勝ちにしたのは確かだ。だけど、あの試合の後、先輩から言われたんだよ。『ミナトは、スタメンどころかキャプテンにもなれる逸材だ。でも、お前は違う。細身というハンデを背負っているから、どれだけコンビネーションが上達してもベンチ確定だ』って」


 俺の前で、初めてユウヤが声を荒げた瞬間だった。


 上級生の発言の醜さに、体の奥から怒りが湧き上がってくるのを感じた。対抗戦以降、その先輩の言う通り、俺だけがスタメン入りしていたことは間違いない。けれど、ユウヤが万年ベンチと言い切るには早計だ。


「それを言ったやつ、教えてくれ」


「言ってどうするんだよ」


「頭を下げさせるんだよ」


「もういい……いいんだ。実際、先輩の言ったことは正しかったからね。だから、もういいんだ」


 全てを諦観したようなその瞳を見て、何かを言ってやる気にはなれなくなった。説得したところで、ユウヤの答えは変わらないと思ったからだ。それでも、たとえ嘘を吐いてでも、引き止めるべきだったのかもしれない。そう後悔するようになったのは、三年生に進級する直前に、ユウヤが転校したことを知ってからだ――。

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