第4話 家族だけじゃなく、学友も
家庭に、俺の居場所はない。頼みの綱であり、よりどころであったチヨも、ついに毒されてしまった。かつてのチヨを失った直後の俺には、無念さが押し寄せてくるばかりで、現状を打破できるようなアイデアを発案することは叶わなかった。
せめて学校生活は充実させよう――そんな気にもなれなかった。何故なら、現実世界がクソだと思う理由の中に、他ならぬ学校生活の苦痛さも含まれているからだ。学生たるもの、『学友や恋人を作り、学業と部活動を両立する』といった花の学園生活を夢見るものだが、残念ながら夢は夢でしかない。
強いて言うなら、学業はまだマシだ。努力は自分を裏切らない、という成功体験が得られる貴重な場でもあるからだ。まあ、裏を返せば、不勉強であれば、失敗体験を学ぶことにもなるが、それもまた悪いものじゃない。だから、こと学業に関しては、個人プレイなので、煩わしい親さえ無視していれば、耐えられないこともないのだ。
面倒なのは、学友や恋愛といった人間関係の方だ。こればかりは、個の力だけでどうにかできる問題ではない。
小学生……いや、幼稚園生の頃からだったか。些細なことでも構わないのだが、理由がなければ、友達を作るということはしてこなかった。そもそも、俗に言う『友達は自然とできるもの』という感覚が理解できなかった。
自然と他人が友達になるなんてことは、不自然ではないだろうか、オカルトではないだろうか。実際、以前は友達だった人も、無意識に、無自覚に、友達関係に発展したわけではない。お互いの利害関係が一致したから、友達になっただけだ。
俺は、自分のことを面白い人間だと思ったことがない。何をするにも、一から論理立てなければ気が済まない性格なので、他人から見てもつまらないタイプであるに違いない。
だが、こんな俺にも春が来たことはあった。中学三年に進級した直後、バスケ部の顧問から部長就任を言い渡され、それ以降、片手で数えられる程度の女生徒が、俺に寄り付くようになっていったのだ。
女生徒二名から告白を受けたことがある。だけど、恋人関係を承諾したことはなかった。容姿が整っていないだとか、内面が下劣だとか、そういう意味で断っていたわけではない。これも、友達作りと同じで、理由がないから断っていたのだ。
理由がないから、と他の生徒とは、ほぼ無縁の学園生活を送っていたのだが、俺も真人間なので、たったそれだけのことで「現実世界なんてクソだ」と落胆はしない。ある事件が起こり、悲観するようになったのだ。
俺にも男友達と呼べるやつらが三人だけいたことがある。名前は、ユウヤ、タクミ、ソウスケで、三人ともバスケ部員ということもあり、練習に付き合ってくれるから、友達関係に発展した、という経緯がある。
最初に会話をしたのは、ユウヤだった。ユウヤは、入学の三か月後にバスケ部に入ったため、入部当初は、わけあり物件ならぬ『わけあり部員』として、バスケ部員の注目を集めていたようなやつだ。
バスケ経験者とは思えないひょろっとした体型が特徴的で、そのことが気になって、俺から話しかけたということを覚えている。
「なあ、本当にバスケやってたのか?」
問うと、ユウヤは泡を食った表情で、俺を見つめた。
驚くのも無理はない。俺は、バスケ部に入部して以来、誰とも仲良くしてこなかったのだ。部内で俺の噂が広まり、ユウヤの耳にも「あいつは会話が苦手らしい」といった情報が届いていても不思議ではない。曰く付き物件ならぬ『曰く付き部員』に話しかけられたのだから、真っ当な反応と言えるだろう。
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