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第19話 きっかけは、雑談だった

 例年通り、今年も桜が咲き乱れる季節を迎えた。いつもと違うことがあるとすれば、義務教育が終わって、真新しい制服に身を包んで授業を受けている、というところ。


 高校に進学したけれど、中学校で見知った顔が多い――ステージや衣装に変化はあるが、生活が一新したわけではない。高校生になったからといって、家庭環境が変わったということもない。


 つまりは、本質的に何も変わっていないのだ。これでは『心新たに』だなんて切り替えることができない。


 悲観的な思考を拭い切れないせいで、政治経済の授業が終わった頃のノートは真っ白だった。真っ白――新しいではなく、虚無の空白。何も書いていないのだから、ブランクなのは至極当然の話。だが、今の俺には、その程度の些細なことが、皮肉にも感じられて、目を背けるようにノートを閉じた。



『ねえねえ、聞いてよ。最近さ、SNSで友達ができたんだよねー』


『いいじゃん! きっかけは?』


『趣味のコミュニティに参加して、その中の一人と仲良くなったの』


『相変わらずコミュ力高いよねえ。あ、でも……結局さ、SNSの友達って、リア友とは別だよね? 実際に会って遊ぶわけでもないし』


『そんなことないよ? 今度の日曜日に、ショッピング行く約束したし』


『ええっ!』


 それは、下校前のホームルーム終わりに、どこからともなく耳に入ってきた雑談だった。


 まさに光明が差した瞬間だった――その手があったかと胸が高鳴った。中学時代は、バスケに集中していたから、取り立ててSNSをやってこなかったが、ネット上であれば、生活を彩ってくれる出会いが見つかるかもしれない。


 なるべく早く現状を打破したいと思った俺は、帰宅するや否や、スマホで流行りのSNSを調べてみた。


 俺も学生の一人だというのに、ペーパードライバーさながらのペーパーSNS利用者なので、画面に表示される大量の情報に、頭がこんがらがりそうになった。飽きることのない情報量の多さは、時間のある学生をSNS中毒にさせる要因の一つだろう。かくいう俺も、その一人になりかねないと、自身に警鐘を鳴らしながら、画面のスクロールやタップを繰り返してみる。


 一通りの操作を指に馴染ませたところで、自室の備え付けてある時計を見た。


「……」


 絶句。


 俺が帰宅した時は、確か十六時を回ったところだった。それなのに、視界に映る短針は、四つ先の二十時を指し示していた。時間の経過スピードが尋常ではない。どうやら俺は、SNS特有の中毒性を、直に体感させられたらしい。


 見ず知らずの人と会話する方法は理解できたけれど、はてさて、誰に話しかけるべきか。取り敢えずは、ターゲットを絞らず、目に入ったアカウントに片っ端から挨拶していく、というのはどうだろう? ……いや、ないな。俺は、気の置けない友達を作りたいだけなのに、この暗い人生に光を灯してくれる人と出会いたいだけなのに、無差別に声をかけた相手が横柄だったら、元も子もないじゃないか。


 対象者を選び抜くには、叩き台を作ることが先決だ。一例として、バスケ好きの人というのはどうだろう? ……うん、駄目だな。もちろんのこと、バスケ好きの人間が全員、友達を捨てるようなことはしないだろうが、ユウヤの一件のことがあったから、なるべく除外して考えたい。


 だったら。だったら、どうすれば――。

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