第18話 稲妻の頭突き
「やつの心――コアを剥き出しにしないことには、救い出せないですからね。誰がヘイティンを生み出したかわかっても無意味なので、やるしかないですよ」
「ま、ミナトくんに同意だわ。……ところで、本当にまだ動けるの?」
「何のこれしきってやつです」
平気だと意思表示すると、マイ先輩の瞳に光が宿った気がした。
「オーケー。それじゃ、さっきみたいに、ミナトくんが突撃してくれるかしら。あたしは、またクリーンヒットを狙ってみるわ」
「了解です!」
役割を交代しても、俺では致命傷を与えることは困難だろうから、妥当な判断だと思う。
俺は、踵を返すことなく走る。後ろを向くことはない、マイ先輩ならやってくれるから。
「よくも侮ってくれたな! この野郎!」
「ウォオオオアアアァアアッ!」
「おお。威勢が随分と――」
助走の勢いを殺すことなく両手を前に出す。
先ほどと同様に、真正面から受け止めるヘイティン。
「随分と良いじゃねえか!」
これがラストチャンス――コア状態にできなければ、俺たちの負けは堅い。
命を燃やす。心を燃やす。魂を――燃やす!
「ぐがぁああああああぁあああぁああああああ!」
「ヴォオオオオァアアアアァアアアアッ!」
眼を飛ばし、魂と魂をぶつけ合う。
「ぐぐぐぐぅ……」
何てパワーだ。一瞬でも気を抜けば、拳を砕かれてしまうぞ。
俺の熱量も虚しく、じりじりと押し負け始め、ついには上体が反ってしまった。
万事休す――燃える、燃えるぞ。俺とお前、どちらが大した玉なのか、わからせてやる。
「いい加減っ! コア状態になりやがれえええええええぇぇえええっ!」
「アアア……アアアアアアアア……」
一転攻勢。
マイ先輩の打撃が効いていたのか、ヘイティンは根比べで折れ始める。俺は、千載一遇のチャンスを逃さなかった。
バキバキバキバキィッ!
ほぼゼロ距離からヘッドバッドを決めると、大地に雷が落ちたような激しい音が木霊した――刹那、体中が脱力し、地に突っ伏しそうになる。
「大手柄よっ!」
華奢なマイ先輩が、男の俺を軽々と脇に抱え、そのまま追い打ちのハイキックをヘイティンの顔面に放つ。そして、立ち往生することなく、素早く一定距離を確保した。
「アッ……ア……」
会心の一撃で、ヘイティンは虫の息だ。
「ありがとうございます。でも、俺はもう……」
「わかってる。休んでなさい」
「力になれず、すみません」
「大手柄って言ったでしょう。ミナトくんのダメージ量で、『まだ動き足りないです』なんて嘯くようなら、この場で気絶させてあげるから」
大手柄……嬉しい言葉だ。ここは一つ休ませてもらうとしよう。気絶させられるのは勘弁だしな……。
「……」
致命傷を負ったヘイティンは、もはや動くことすらできないようだ――人型のヘイティンになる前兆だ。
一気に押し寄せてきた安堵感が、張り詰めていた緊張感を解いていき、それと連動するように、俺の意識を繋ぎ止めていた糸が、ぎりぎりと引き裂かれていくのがわかった。
「マイ先輩……」
「どうかした?」
横目で聞いてくれるマイ先輩。
「殴られるまでもなく……駄目みたいです……」
「……へ? ええっ! ちょっと! ミナトくん!」
マイ先輩の腕の中で、意識が遠のいていく。
ぷつん、糸が切れた。
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