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第15話 あなただけが、あなたをできる

「足を引っ張ったとか、余計なこと考えてるでしょ」


 マイ先輩は、俺に背を向けたままそう言った。そして。


「ミナトくんはさ、あたしみたいにならなくていいんだよ。そりゃ、そう思ってもらえるのは嬉しいけれど……でも、あたしみたいにならなくていい」


 いや。何と言われようと、俺はあなたのようになりたい。あなたのような、聡明な人に。


「ミナトくんは、ミナトくんにならないと」


 俺が……俺になる?


「あたし、忘れてないから。ミナトくんに何があったか。環境が起因して、心が荒んでいったこと、忘れてないから。……だけど、駄目。駄目よ。ミナトくんが、ミナトくんを捨てちゃ、駄目なの」


 ――タタタタタタタタ。


 また聞こえた――俺たちを嗜めるようなヘイティンの足音。


 畏怖の対象が接近しているにも関わらず、マイ先輩は動じない。


「捨てちゃったらさ――」


 ――ダダダダダダダダダダダ。


 容赦なく、遠慮なく、差し迫るヘイティン。しかし、不思議と安心していた――命が奪われるかもしれないという危機的状況に身を投じていても、それでも、胸を撫で下ろしていた。そして、また一つ、自己嫌悪する――今回もマイ先輩に頼りっぱなしだったと。


 ――ダダダダダダッ!


「……アアアッ!」


 またもや、真後ろから声がする。


 動かざること山の如し――マイ先輩は、平静を保っていた。微動だにしない構えを見て気付く。この人は、背後を取られても諦めていない。


「ミナトくんの人生は! 誰が生きるの!」


 叱責するような心の叫びとともに、ポニーテールを大きく揺らしながら振り返り、腕を、拳を、驚異のスピードで振り抜いた。


 マイ先輩の強烈なバックブローが炸裂し、深手を負ったヘイティンは、ついにその姿を現した。人間の骨格が肥大した、全身真っ白の魔物だ。


 攻めの突飛さを逆手に取った一撃――それは、明らかにノールックだった。何が弱点だ――悟られては退かれてしまうと考え、敢えてそうしたのだろうが、一秒でもタイミングが合わなければ、今度こそ絶命していただろう。


「アアアァァアアッアァアアアアッ!」


 声にならない声を上げる怪物、ヘイティン。視認できたからといって油断ならない――見えるか否かということ以外、状況はさして変わりない。気を抜けば、そこで終了だ。


 依然、ヘイティンを警戒しなければならないが、マイ先輩に言われたことが、俺の脳内で思考を妨げてくる。


 これまで、俺は俺のために生きてきたのか、その答えは明白だった。俺は、誰かのために生きてこなかった――俺自身のためにも、生きてこなかった。


「相手の瞳は、まだまだ死んでいないようね」


 誰に言うでもなく、唾棄するように呟く女戦士。


 俺も戦いたい。戦って、一矢報いたい……。しかしながら、体はまだ動いてくれない。

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