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第10話 このパパにして、このムスメあり

『あ……あああ……』


 これぞ中年男性と言える低音ボイスだった。それは、聞き馴染みのある声でもあった。だが、音声に乱れがあるせいか、正確に声の主を特定することは叶わない。


 マイ先輩の方を見ると、ほぼ同時にマイ先輩も俺の表情を窺ってきた。


「マイ先輩も聞こえてますか?」


 首を縦に振り、ポニーテールが揺れる。


『……テス……テスト……聞こえるかい?』


「きゃあっ!」


 頭の中に不法侵入してくる男の声に、あの豪勇なマイ先輩が、珍しく弱気な声を上げた。


 真の異常事態が起こってしまった。人間の言語が聞こえたのだから、常識的に考えて人の仕業なのだろうが……断定するのはまだ早いかもしれない。何故なら、脳内に話しかけるという行為が、もう人間の所業じゃないからだ。もしや……姿かたちが見えないヘイティンの犯行……?


『マイ、ミナトくん。僕だよ、わかるかな』


 またもや聞こえてきた音声で、話し手が誰であるか判明した。その正体は、人類で唯一、常識の二文字が当て嵌まらない天才、鬼才だった。


「パパ!」


「ヨシミ博士!」


 敵襲による牽制の可能性を疑っていた俺とマイ先輩は、声調に歓喜を詰め込んで応答した。


『よし、こちらの声が届いているのであれば十分だ。あ、一応説明しておくと、今、現世とN世界とで意思伝達を可能にするシステム――Nトランスミッションを使って、二人の脳内に話しかけているんだ』


「んー! やっぱりパパは凄い!」


『いやいや、そんなこと……あるかな? これ、結構凄いよね? なーんて』


 で、出た……親子でひとしきり惚気る流れ……。


 改めて思うが、この親子は異質だ。冷え切った俺と家族の関係は論外としても、一般的な家庭でも、これほど仲睦まじくはないだろう。


 これが幼少期なら納得できるけれど、マイ先輩は立派な高校生なんだよなあ……。


 惚気といっても、並大抵の惚気ではない。人知れず惚気ていればいいものの、この親子は人前でも、というか後輩の前でも、全身全霊で惚気る。思わず目を背けたくなるくらい惚気る。


 そんな異質な親子だけれど、異常だとは思わない。二人の間には、歪曲した下劣な思惑は一切存在しないからだ。ただ親子の愛情を深め合っているだけだからだ。


 血の通っている者同士、愛し合うことはこの上なく素晴らしい。だがしかし、物事には優先順位というものがある。ヨシミ博士は、俺たちに事前説明もなく、Nトランスミッションを使用してきたのだから、何か緊急性の高い用件を伝えたいのかもしれない。カップル……ではなく、親子の会話に水を差すことになるけれど、訊かなければいけない。


「あのー、お取り込みのところ申し訳ありませんが、ヨシミ博士、緊急事態が発生したんですよね?」


 パパとのお楽しみを邪魔されたからか、怪訝な瞳を携えたマイ先輩が、俺に詰め寄ってきた。


「緊急事態って何よ」


 近付いてきた歩数分だけ、俺も後退りして、急襲をもらわない距離を保つ。こうでもしなければ、手を出されかねない。本当、頼りがいはあるけれど、そんな良さを打ち消してしまうほどの暴力性もある先輩だ。


 ともかく、訊かれたからには答えよう。

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