呪い…?
「これは呪いなの。」
「え?呪い?」
「うん。あなたが無事に私の元に帰ってくる様にって。」
「おまじないじゃなくて?」
「呪いなの。」
「え、俺死ぬの?」
「そんな物騒な話じゃなくて、あなたにとっての家のご飯が実家と私の味になればいいなってだけ。ご飯に何か混ぜたりしてないからご心配なく。」
「なるほどね。じゃあ君は、日々幸福な食卓を作りながら、俺に呪いの種を蒔いてるのか。」
「そういうことになるね。何もなければ、何の効力もないから大したことないけど。」
「ある意味嬉しいけど、毎日作るの大変だったら無理しないでよ。俺が料理出来ないばっかりに交代してあげられないけど、惣菜もレトルトも市販品も遠慮なく使ってね。」
「ありがとう。それ以外の家事はやってもらってるからおあいこだよ。それに作り置きも活用してるから大丈夫。あ、作れない日はお言葉に甘えて、そうするね。」
―――
「ごめん。やっぱり帰るよ。」
「急にどうしたの?お口に合わなかった?」
「俺、本当に呪われてた。」
「へ?なんの話?」
「今まで妻に隠す様な事したことなくて気付かなかったけど、10年かけてしっかり呪われてる事に気付いた。せっかく作ってもらったのに申し訳ない。それと、今後もう会えないや。本当にごめん。」
「よく分からないんだけど、どういう事よ?」
「終わりにしよう。間違いが起こる前で良かった。」
「今日で会うのも3回目だし、もしかしたらって思って、家に呼んだんだけど。どういうつもり?そんなんなら、こっちから願い下げよ。」
―――
「あら?おかえりなさい。早かったのね。」
「ただいま。早めに切り上げちゃって。」
「同僚と呑むって連絡来てたから、遅くなると思って夕飯支度してないんだけど…お腹空いてる?作り置きで良ければ出せるけど。」
「お願いしてもいい?ほとんど飲み食いしないまま帰ってきちゃって。軽く食べたい。」
「わかった。用意してくるね。」
「ありがとう。あと、ごめんなさい。」
「どうしたの?何かあった?まさか本当に呪われてた?」
「いや、何もないよ。ほら、急に帰って来ちゃった上にご飯の支度お願いしちゃったからさ。とりあえず部屋に荷物置いてくる。」
「そう、なら良かった。私の呪いなんて、何もなければ、ただの冗談でしかないもの。」
つい馴染みのある味を求めてしまう。
調理中にふと思い付き、唐突に書きました。
こういう話の時、映像媒体だとラスト1カットに意味深な笑みがあったりして怖いオチですが、本作は会話文のみなので、表情までは分かりません。
どんな情景なのか、妻の性格はどんなタイプか、各々のご想像にお任せします。