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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第5章 St. George And The Dragon
99/219

5-9

引き続き、

第5章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 リーネが水晶(クオーツ)に付きっきりになってから数日がたち、その間に、重機と化したサインとルーミーがログハウスの外観を完成させていた。素晴らしいばかりの重機ぶりに、アキラは呆れていたが、大精霊二体の頑張りによって、かなり予定より前倒しができた。

 あとは内装、床や天井、それに壁に板を張ったりすれば一応の完成だが、この作業には重機の出番はない。

 そこで、スノウから提案があった。

「田畑を作ってはいかがですか」

 今までは、細々とツキがハーブ畑と家庭菜園を作っていた程度で、ローダン商会から生鮮品の供給を受けていたのだが、対帝国が長引けば、戦備の供給に忙しいローダンの負担を減らすことが出来るだろう。

「せっかく、サイン様とノーミー様がいらっしゃるのですから」

 スノウが言うことは、使える者は使え、ということだ。

「なるほど、それはいい案だな」

 たとえ相手が大精霊であっても、使い倒すことに遠慮のないアキラが賛成し、ブルーも遊ばせているくらいなら、働かせろと賛成していた。

 帝国兵が境界に張った結界を突破しようとしているのは、毎日のように精霊が伝えてきていた。いろいろと試しているようだが、未だ成功はしていない。そんな状況であったのでは、アキラ達から何かをする事もないので、この際だからと開墾をすることにしたのだ。

 アキラが、開墾を開始すると告げると、サインは自分の本分が生かせるためか、かすかに嬉しそうな表情をしていたが、ノーミーはぶー、と文句を言い出した。

「大精霊使いが荒いぞー、もっと敬え~」

「ほう、敬って欲しいのか」

 こうなることを見越して、アキラについて来ていたブルーがずいと前に出る。

 それを見たノーミーが、何故かだらだらと冷や汗を流し始めた。

「……いえ、あーし頑張らせてもらいます」

 その様子を見ていたアキラが感心したかのように声を上げた。

「さすがのドラゴンの貫禄か?」

「いや、昔ちょっと逆らいやがったから。あとは想像に任す」

 貫禄からではなく、力任せかとアキラは肩を落とした。

 とにかく、ブルーがログハウス周辺の、以前からあった結界を広げて森の一部を取り込んだ。

 皆で手分けして、取り込んだ森の木を切っていくのだが、アキラやライラは斧を使い、スノウやサインは魔術で切っていく。そして、残された切り株をノーミーが土を操作して、まるで吐き出されるようにして、取り除いていく。

 幾日か森を切り開いた後、広い土地が生まれた。あとは、大精霊であるサインとノーミーが本領を発揮して、田畑を作り上げていた。

 そこまでくれば、アキラとライラは手が空き、監督のブルーを連れてログハウスの内装を作る作業へと戻ったのだった。

 ちなみに、開墾の監督はスノウが行ったのだが、笑顔でありながら、ブルー以上の酷使ぷりだった。

 さすがに農耕と大地の大精霊が揃っており、田んぼは別にして、畑は瞬く間に出来上がった。

 家事を一手に引き受けているツキと、畑の状態を読み取ったサインが相談して作る作物は決め、ブルーがローダンに連絡して種や苗木を精霊馬の定期便にて取り寄せた。定期便は前はリーネとアキラの二人で行っていたが、リーネが水晶(クオーツ)に付きっきりなため、アキラとツキの二人で行くことになった。後ほど、それを聞いたリーネがふくれっ面になったのだが。


 開墾も終わりに近づき、後はアキラとツキが持ち帰る予定の種や苗木を待つばかりとなっていた。

 水晶(クオーツ)の置かれた作業場を除き、作業を終えてライラの作る夕飯を皆が手伝っていた。意外なことに、豪快でありながらも味は良く、物珍しさも手伝ってか、ツキが不在の中で作られるライラの料理は好評であった。

 調理場の騒がしさが、微かに届く畑の縁に、スノウはしゃがみ込んでいた。

 土へと手を差し入れ、その荒さと湿り気を確認するように。

 そんなスノウの背に声をかけたのがノーミーであった。

「どーしたの?いつもなら、ライラ姉さんを手伝ってんのに」

 しゃがんだまま、スノウがノーミーに振り返る。

「いつも思うんですよ。何かが出来上がるたびに、これが最後かなって?」

 ぱっと飛びかかるように、ノーミーがスノウの背から抱きついた、上から被さるように。重みにスノウの喉からくぇという音が漏れ、恥ずかしそうに顔を赤く染めるスノウだが、陽が沈み始めて、空が赤くなる時間で良かったなと思う。

「どーして、そんなに暗いの?」

「もっと、何かを残したくて……」

「残さなくたって、いいよ。スノウのことは、あーしが覚えているから。あーしは大精霊だよ。だから、ずっとずっと覚えているんだよ。誰かが覚えている限り、大丈夫だよ」

 スノウの背から下りたノーミーが、横で膝を抱えて座り、にかりと微笑みをスノウに向けた。それに、さみしそうな笑みを返すスノウ。

「ありがとうございます。大精霊の記憶に残る誉れ、不相応でございますが……」

「あーしには、忘れちゃいけないことが、たった一つある。うーん、あったかな。でもってだから、スノウのことは二つ目」いつも陽気なノーミーの瞳が陰る「一つ目も、二つ目も絶対に覚えてる。それが非道いことでも、悲しいことでも。覚えてる。覚えていなくちゃいけないんだ」

 顔を抱え込んだ膝に押しつけて、ノーミーは表情を隠し、スノウからは見て取れることが出来ない。

 記憶に残すべき事が、二つあるとノーミーは言う。一つはスノウの事。では、もう一つは?聞いて良い事なのかと、スノウは口ごもる。ノーミーは非道いことだと、悲しいことだと言った。

 聞くべき事ではないのだろうと、スノウは口を閉じ、ノーミーと同じように地面に座り込み、膝を抱えて額を押しつけた。

 言葉もなく、時間だけが流れていく。

 スノウの生は短いとされている。治療師ばかりでなく、大精霊までもが断言したのだ。だから、スノウはその残りの生を燃やし尽くしてしまおう、燻って終わらしてなるものかと。そう決意していた。

「なぜ、そこまで私の事を?」

 自身に関わることだ、これならばスノウにも尋ねる権利くらいはあるだろう、そう思って口を開いた。

 スノウの言葉に、顔を上げ、赤く染まった空をノーミーは見上げた。その横顔をスノウは見つめる。

「スノウ、あなたの心が綺麗だから。精霊は人や獣人を姿形では判断しない」

 知ってるよねと、空を見上げながら、ノーミーはスノウに尋ねる。普段の陽気さが消えている。大精霊としての威厳が感じられる。

「精霊は心の綺麗さに惹かれる」

「私の心は綺麗でしょうか。自分の心の事は分かりません。それに、私だって打算や欺瞞があって、嘘だってついたことがあります」

 だから、綺麗だと言われても、そう簡単に納得などは出来ないと。

 ぱっとノーミーが飛ぶように立ち上がり、チェックのミニスカートの土を手で払う。その背には、作業の邪魔だからと仕舞っていた羽が現れていた。

 ゆらゆらと揺れるノーミーの羽、翼。地面に座り込んだスノウがその姿を見上げる。赤の空を背景にしたノーミーは、いつもと違って美しかった。可愛いという表現は似つかわしくなかった。

「あーしはスノウの心が大きくて綺麗だって思う」

 その言葉の意味は何だろうと、スノウが考える間もなく、ノーミーは身体を翻して、皆がいる調理場へと駆けだしていった。

 その時、もう一言、何かを言ったようにスノウは思うのだが、それは自分がただそう感じただけなのかもしれない、蜃気楼のようなものなのだと。

 『心は命の灯火だ』

 灯火が大きいほど、よく燃え尽くすのだと。


J○?:「わんわんがいじめる~」

幼女もどき:「ほう……」

わんわん:「……申し訳ございません」

ドラゴンの威厳って?


次回、明日中の投稿になります。

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