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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第5章 St. George And The Dragon
97/219

5-7

引き続き、

第5章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

ブセファランドラ王国 王都パリス ローダン商会

 結局、王都近郊までついて来たキムボールだが、練兵場へ行くと言い残して、一行から別れを告げていた。面倒は勘弁だと、アキラは境界から精霊馬をけっこう早く駆けさせたつもりだったが、さすがに上位種のホーンホースで、精霊馬の駆ける速度についてくることが出来たのだ。

 その道々で、ツキにちょっかいかけるキムボールだが、ツキは最初は相手にしていたのだが、時を経るにしたがって、面倒なという表情を浮かべ始めており、別れる時にはあからさまに安堵の表情を浮かべていた。

 そんな境界からの一連の出来事を、アキラはローダンとリーネに挟まれて語っていた。ツキはそんな前に座って、静かにカップに口をつけていた。

 アキラの話しに、更にはリーネが話しを盛るものだから、笑い転げるローダン。対帝国についての話しをこれからしなくてはならないのだが、深刻にならずになって良いかとアキラは思うのだった。

「災難だったわね」

「まったくもって、私のどこがいいのでしょうか?」

「ツキの自己評価が低いのは仕方ないとして、さっさとどうにかしないとね」

 笑いを納めて、ローダンが困ったように眉をひそめる。ツキも同じように眉をひそめていた。

「相手は王族、しかも王太子ですから、へたな事は出来ませんし」

「いいじゃないの。ツキだって巫女姫なんだから、王族扱いでしょ」

「それはそうですが、それだけに、地位が釣り合ってしまって……」

 一見、王子が庶民に愛を語っているように見えるが、出るとこに出れば、ツキとリーネは王族あるいはそれに準ずる扱いだ。巫女姫の姫の敬称は伊達ではない。

「まあ、いざとなったらブルーとアキラに暴れてもらいなさい」

「そうします」

「えっ、俺?」

 そのアキラの言葉に、じとりとした視線が三つ向けられるのだった。


 何故か、三人から湿った視線を向けられたアキラは、協同国の状況についてローダンから聞き出すことが出来ていた。

 戦備と食料などが、湯水のごとく協同国へと流し込まれているが、災厄が治まったとの話しが広まっておらず、食料の価格が高止まりしているなかで、よく現物が集められたものだとアキラが感心したのだが、ローダンが金貨で殴って集めたとの答えに、頭を抱えてしまった。

「筆頭族長のサイモンには、ブルーが支払うから安心してほしいって言ってあるから」

「いや、知ってるのがサイモンだけだったら、他の獣人達が後々請求される金額を考えて、顔を真っ青にしてないか?」

 ブルーの支払いと公言してしまうと、甘えが生じてしまい、それはそれで問題なので、サイモンだけに伝えているのだとローダンが語って聞かせる。今、獣人達はローダンが押し売りをしているように見えているだろう。かろうじて、獣人達が受け入れているのは、ブルーとともに戦うのに必要だからだと考えているからだ。

「どっかで、人狐が前に出てくるぞ」

「大丈夫よ。リアルトとかいう小僧を丸め込んであるから」

 そのローダンの言葉に、アキラのリアルトの評価がだだ下がりをするのだった。内心で、見直すのは早かったかと。

「まあ、何かあったらサインとノーミーに頼むか」

「サインは良かったわね」

「そうだな、あれから後遺症みたいなものはないようだし」

 ローダンとサインはすでに会話を交わしており、一連の出来事はローダンに伝わっていた。ノーミーが止まった件もすでに聞いているようだった。

「さて、それじゃ俺たちは帝国との境界へと向かうとするか」

 情報も得たことだし、行こうかと声を出して立ち上がったアキラの手を、がしりとローダンが握って引き留めた。

「ちょっと、聞いたんだけど?」

「何を?」

「リーネとツキがぱふぇなるものをご馳走になったとか」

「作れと?」

 こくこくと頷く、ローダン。そしてなぜか、リーネとツキも。

 そうだった、レシピはローダン商会にも提出していたのだったと。

 がくりと肩を落とすアキラだった。


モス帝国 蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド 境界

 ローダンお抱えのレストランに、拉致られるように連れ去られたアキラは、そこでパフェを作り、提供する羽目になった。前回同様のフルーツ主体ではリーネとツキがいることだしと、新鮮な卵があったのでプリンを作って乗せたのだが、それがいけなかった。

 結局、その日は出発できず、プリンのレシピ作成とレストランのコックに教える羽目になったからだ。前回のパフェは既存にあるものを組み合わせただけであったが、今回はこの世界でまだ発明されていないプリンを披露したため、ローダンを筆頭に、リーネとツキが大いに喜んでしまい、守護地(フィールド)に張る結界のことなどは後回しにされてしまったのだ。

 他はないのかと迫るローダンを振り切り、こうやってようやく目的地にたどり着いていた。

 いまは、リーネとツキが、結界を張るのにどこか良いかを見て回っている。手伝うことのないアキラは、僅かに高くなった場所に座り込んで、ぽつりと一人で帝国の領土を眺めていた。一応警戒をしているのだ。

 精霊馬もリーネとツキが乗っていってしまったため、本当にアキラ一人だった。

 良い機会だからと、これからを考えるアキラだが、この世界に転移してきて、やはりブルーには大いに世話になったと思う。恩返しの気持ちはあったが、それ以上に、アキラはブルーが気に入っていた。

 ブルーには決して言わないことだが、友人ではなく、だらしのない兄のように感じているのだ。一人っ子のアキラではあったが。

 そして、色々と関わっている大精霊達。なぜか姉ぶったように接してくる。だが、アキラはそれが嫌ではなかった。なぜかそれがしっくりとするのだ。

 では、サインとノーミーは?

 あの二体は最近知り合ったばかりだが、大精霊にしては姉ぶってはこない。今までとは異質だとアキラは感じていた。だが、それを具体化しようとしても、どうにも出来なかった。それがアキラの心をざわつかせている。

 ごろりとアキラは地面に寝転がると、空を見上げる。昼間のシルバーが目に入る。不思議なことに、シルバーは昼であっても見ることが出来るが、ダークは夜にしか見ることが出来ないのだ。おそらくは軌道がそうなっているからだとアキラは考えるのだが、頭の片隅では、そんな軌道は無いのではないかとも考えていた。

 どれだけ考えようとも、答えは出ない。

 そんな時、蹄が草を踏む音が聞こえてきた。

 上半身を起こすアキラの目に、精霊馬に乗ったリーネとツキの姿が映った。

「決まったよー」

 声を上げるリーネ。

 そうかとばかりに立ち上がったアキラは、二人を出迎えるのだった。


 意外にも、リーネとツキが結界を張る起点として選んだのは、以前にエリオットが率いる帝国の騎士達と戦った場所であった。

 それは偶然ではなく、帝国と守護地(フィールド)が面している境界の真ん中あたりであったからだ。

 境界線上を、帝国領土に背を向けているリーネ。目蓋を閉じて集中していた。その無防備な姿に、アキラとツキが周囲の様子、特に帝国領土に警戒をしていた。

 空気を震わす音を聞いて、思わずアキラがリーネを見ると、その頭上にとてつもなく大きな魔方陣が形成されていた。最初は一つだけかとみていたアキラだが、次々と魔方陣が生まれ、上へ上へと上昇していく。

 魔方陣同士が干渉しているのか、光を放ち、その光に照らされて本来不可視であるはずの精霊が浮かび上がっていた。

 精霊は様々な姿をしていた。蝶のように羽だけのもの、鳥のようなもの、蛇に羽が生えたようなもの。アキラが過去に見たこともないもの。そのすべてに共通しているのは、羽を持っている点であった。

 浮かび上がった精霊が、リーネの頭上で舞い踊る。それは歓喜を体現しているのだろうか。

 飛ぶその後ろに虹を描くものもいた。霧を生むものもいた。そして、炎や砂塵を生むものがいた。

 リーネの意志を汲んで、守護地(フィールド)に結界を張る精霊達。それが嬉しくて、嬉しくて舞い踊っている。ブルーを守ってと願われて歓喜のあまり踊っていた。

 アキラは、この光景を言葉にしたい。表現したいと願ったが、出てきたのはたったの一言だ。

「綺麗だ」

 その言葉に頷くツキ。同じように言葉に出来ない様子だ。

 やがて、魔方陣がゆっくりと消えていく。それはまるで雨後の虹が空に溶けていくようだった。

 さっそくとばかりに、一旦守護地(フィールド)を出て、帝国の領土へと出たアキラは、身を翻して守護地(フィールド)に戻る。

「境界上を通る時に、何か違和感があったな」

「それが結界だよ」

 リーネによれば、サインのいた島にあった結界とほぼ同じなのだが、一工夫を加えて、ブルーに悪意のないものは通過出来るようにしておいたとの事だ。

 その説明を聞いたアキラは、これを話すと、またスノウあたりが驚愕するだろうなと思うのだった。いや、それよりもだ。帝国領土を振り返ったアキラはつぶやいた。

「さて、のぞき見していた帝国兵士はどんな報告をするかな」

 アキラの見据える先には、人っ子一人いない。だが、その視線は正確に帝国兵を貫いていた。


大太刀:「一応、王女と同格です」

幼女もどき:「同じく、王女として扱われてるよ」

わんわん:「王以上の扱いです」

社畜男:「……平民です」

……微妙なネタを……。


次回、明日中の投稿になります。

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