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引き続き、
第5章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
リーネが、結界を張ることが出来ると分かって、アキラはリーネとツキの二人だけを連れて、帝国との境界へ偵察を兼ねて赴き、そこでリーネが結界を張ることになった。
リーネによれば、結界内になる場所であれば、どこでも結界は張れるとのことであったが、どんな状態になるのか確認も必要ということで、境界まで出向くことにしたのだ。
今回はブルーは留守番である。一応、ターゲットということで、一番強固に守られているログハウス周辺から離れないことにしたのだ。残念そうにしていたが、リーネに言い聞かされて項垂れながらも了解したのだった。
水晶については、作業場に赴いて尋ねたところ、ディアナとペノンズが必要ということで、必ず守るとの約束をしてくれたので残すことにした。あれからリーネは地中にも結界を張っており、もう大丈夫と胸を張って保証していたのも理由の一つだ。
旅は、遠回りになるが、一度王都パリスのローダン商会へと赴いて、アラーダイス街道を通ってから帝国との境界へと向かうことにする。精霊馬を使えば、守護地の森を徒歩で抜けるのと、同程度の日数で行けるだろうとの予測から、本店に顔出しをしておくことにしたのだ。
ローダンを呼び出せば事は済むのだが、王都で何か情報を拾える可能性もあるので、直接出向くことにした。
用意が調い次第出かけることにして、皆は各々が利用しているテントや、部屋へとへと向かうが、スノウにくっついてテントに向かおうとしていたノーミーをアキラは呼び止め、テーブルへと戻るように頼んだ。
特に眠りが必要でもない大精霊のくせに、眠い眠いと連呼するノーミーがアキラの前に座って、何かなと尋ねてくる。
「教えて欲しいことがあってな」
「なんだ~、あーしのスリーサイズ?男子の好み?聞いて聞いて!あっ、だけどあーしのは見たから、サイズ聞く必要ないんじゃね?」
うざい、頭を抱え込んで、テーブル突っ伏したい欲求を抑え込みつつも、ノーミーの邸宅玄関で見た光景を思い出していた。
リーネやツキに比べて慎ましかったが、形はキレイだったなと。
いやいや、それは横に置いといてとアキラは口を開く。見た目が十代半ばであっても、中身は四十代のおっさんであるアキラは自制心だけは立派だった。
「……醤油や味噌のことだ。誰に教わった」
協同国に製造法を伝えたのは、ノーミーだとスノウから聞いている。アキラはノーミーに教えた者に興味があった。今までも聞く機会はあったのだが、何故か今日までそれが出来なかったのだ。もしかすると、聞くのが怖いのかとアキラは自分の心を叱咤する。
「そうだねー、季節が二回か三回くらい一周した前かな。お爺さんだったよ」
「その爺さんの印象は?」
ふと、ノーミーの顔が真顔になる。
「見た目は普通、覚えてない。でもあれは恐ろしい何か。優しくいろいろ教えてくれたけど」
それだけかとアキラは聞き、頷くノーミー。
「それじゃ最後に聞くが、頬は?」
これを言い忘れているだろうと、アキラは自分の右頬を指でなぞった。
こくんと頷くノーミー。
全身を脱力させて、背もたれに身体を預けるアキラ。
「知ってるんでしょう?」
「ああ」
短く答えたアキラは、乱暴に椅子から立ち上がり、空を見上げる。黒い月と銀の月が夜空に浮かんでいた。
「あーしを頼ってくれて良いからね」
アキラの背中から抱きつくノーミー。背中に頬ずりしてから身体を離し、スノウの待つテントへと歩み去っていた。それを見送ることもなく、アキラは空を見上げ続ける。
「くそ爺!何でだ!!」
吐き出す言葉が苛つきを増す。
今夜も黒と銀が降り注いでいた。
ブセファランドラ王国 蒼龍の守護地 境界
守護地とブセファランドラ王国との境界では、王国側にて境界から距離を置いてテント村が出来上がっていた。鳥居もどきとキャリアーは相変わらずそのままであった。
テント村はキムボールが以前約束した、守護地を守るために派遣した兵士たちが使用しているようだ。
王国のディーネからブルーに連絡があって、警備を開始することを知ってはいたが、アキラ達が実際に目にするのは初めてのことだった。
警備の目は、当然のように守護地外部へと向けられていたが、守護地の森から、精霊馬に跨がって現れたアキラ達に気づいた兵士たちが騒ぎ始めた。
だが、それは警戒のためではなかった。
アキラ達の容姿の特徴が伝えられていたのか、その騒ぎはスカイドラゴンの関係者が現れ、それに対応するためのものであったのだ。
鳥居もどきの王国側で、道に沿ってずらりと兵士たちが整列をし、隊長らしき人物が前に出て、鳥居もどきの下でアキラ達を待ち構えていた。
慣れぬ仰々しさに、アキラはキョロキョロと視線を動かし、怯えたような心の機微に反応したのか、乗っている精霊馬スピリットまでギクシャクと歩を進めていた。
アキラの後ろでスピリットに跨がっていたツキがクスリと笑い、アキラの耳に口を寄せた。
「堂々としてなくては」
そのツキの言葉に、アキラはカクカクと人形めいた動きで頷いた。
鳥居もどきに近づくに従い、隊長らしき人物の詳細が分かるようになった。
「あら、王子様ですね」
「本当だ、あいつこんなところで何してるんだ」
ツキが耳元に呟くのに頷き返すアキラ。並んで精霊馬スプライトを駆るリーネが不機嫌だ。
さすがに精霊馬に跨がったままでは失礼かと、アキラはスピリットから下り、ツキが下りるのに手を貸す。
並んでいたリーネが何故か下りようとはしない。
ツキがアキラの脇腹を突く。それで察したアキラが、やれやれとばかりに、リーネに手を差し出して下りるのを手伝う。
不機嫌そうなリーネに、次は一緒に乗るからと宥めながら、待ち構えているキムボールへと近づいて行った。
「今日は犬が一緒じゃないんだな」
「わんわんは留守番だよ」
何と答えようかと、考えているうちに、リーネが答えを返してしまった。まさしくその通りなので、アキラが黙っていると、その後ろに隠れるようにして立っていたツキをキムボールは目ざとく見つけた。
「素敵なお姉さんは一緒だな」
その馴れ馴れしさに、アキラは呆れかえる。
「ここは検問ではないだろう。行かせて貰う」
「まあ、そう焦るなよ」
このまま、キムボールがツキに声をかけると、またややこしい事態になると、アキラはさっさと通り過ぎようとするが、キムボールは引き留めたい様子だ。
だがアキラの予想に反して、キムボールが表情を引き締める。
「王国の判断は静観だ。すまない」
「何を謝っている。世論は別にしても、王家がそう判断したのなら、それに俺たちが文句を言う筋合いはない。あんたの私情は知らんけどな」
「そう言ってもらえると、ありがたい」
キムボールの視線が、アキラからツキへと移る。
「そこでだ、俺個人の立場でスカイドラゴンに協力したいんだが」
「そうか、俺が判断すべきことではないな。ブルーに言え」
それだけ言うと、背を向けてスプライトにアキラは跨がり、リーネの手を掴んで、自分の後ろに引き上げ、スピリットに跨がったツキに合図をしてこの場から離れようとした。
「おい!ここにスカイドラゴンはいないだろう!」
「ディーネに伝言でも頼めよ」
行って良いのかと、問いかけるようにスプライトが振り返ってアキラを見るが、それに首を叩いて行こうと促すアキラ。
「ディーネに伝言って、王都に戻れってか!」
慌てるキムボールが、自分のホーンホースを呼び寄せて、慌てて跨がるとアキラ達の後ろを追い始める。その様子を振り返って見たツキがため息をつくのだった。
ばか王子:「待ってました、ここ境界で」
幼女もどき:「(キモッ!)」
大太刀:「(ストーカー?)」
社畜男:「??」
殴られてろ。
次回、明日中の投稿になります。