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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第5章 St. George And The Dragon
92/219

5-2

引き続き、

第5章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 その日の夕食。

 ツキはすでに下ごしらえを終えており、サインの持ってきた醤油と味噌は出番がなさそうに見えた。

 しかし、アキラは刻まれた野菜を見つけると、ツキに何に使うつもりだったのかと尋ねた。

「野菜炒めに使おうかと思っていましたけど?」

「俺が調理する」

 そう宣言したアキラは、しっかりと両手を洗い、すでに煮込み始めたシチューの鍋をツキに任せて、大ぶりのフライパンを用意した。

 熱したフライパンに脂身の多い肉片を入れたアキラは、十分に熱せられて煙りを上げ始めたところへ、ツキがより分けておいた堅い野菜だけを投入した。フライパンを振ることはせず、お玉で軽く混ぜる程度にとどめておく。

 やがて、投入した野菜がしんなりとなり始めたところへ、残った柔らかい葉の部分をフライパンへ投入した。ぐるりとフライパンの中で二回、三回とお玉を回して野菜を混ぜていく。

 塩、胡椒と投入して、柔らかい葉を一つ口して頷いた。

 野菜をフライパンの中心に集め、ツボに入れたお玉に、醤油をまとわせると、それを野菜のない部分に触れさせる。

「野菜に掛けないのですか?」

 覗き込んだツキがアキラに尋ねる。どうやら、味付けなのだから、野菜に振りかけなくては意味がないと思ったようだ。

「これは味付けじゃなくて、風味を付けているだけなんだ」

 ふむと頷くツキに、食べれば分かるとアキラ。

「それでは楽しみにしましょう」

 そう言って、料理を乗せるために大皿を用意するツキだった。


 全員が興味津々にアキラの作った野菜炒めを口にした。意外だったのが、ライラとスノウがアキラの醤油の使い方を初めて見たことだ。

 どうやら、生産を始めている協同国でも使用方法はまだ開発途上のようだった。

 先ずはツキ。

「香ばしいですね。なるほど、調味料にこんな使い方があるのですね」

 リーネが無言で野菜炒めをほおばっている。いや、ツキ以外すべての者がだ。

「これは味噌が楽しみだな」

 ブルーが平皿から野菜炒めを食べ終わり、期待を口にする。

「そうだ、サイン、次は酢と酒、味醂も頼む」

 頬を大きく膨らませたサインは、アキラの言葉にこくこくと頷き返すのであった。


モス帝国 帝都ロンデニオン 王宮

 いわゆる謁見の間には、帝国の貴族達が集まっていた。大きな扉から、帝王が座る椅子、つまりは玉座が置かれたひな壇まで伸びる赤い絨毯を挟んで並んでいた。

 もちろん帝王に近くになるほど、爵位が高い者になる。

 まだ、帝王の姿もないため、貴族達は手近の者と雑談にいそしんでいた。こういった時に交わされる会話、噂話の類いが多いのだが、情報の収集に良く利用されている。もちろん、欺瞞情報を流すのにも良い機会なのだが。

 今日、この謁見の場に貴族が集まったのは、もちろんそのような布令がなされたからだが、一様に疑問が雑談にて交わされている。

 たいていの場合、謁見の場に貴族達を集めるのは、外国の使者が挨拶するなど、儀礼的な場合が多い。だが、今日のこの場に集めるように出された布令には、そのようなことは一切書かれておらず、強権的に集まれと命じられ不満を言う、そこまで行かずとも不満げな表情を浮かべる貴族が多い。無表情でいるのは、自分の領地にいて、この場にこれない貴族の代理だろうか。

 しかし、普段から情報通を自任する貴族達は得意げに周りの者に語って聞かせるのだ。今までただ一度として使われたことのない、玉座の後ろに一段高く置かれた椅子を指差し。

 今日はシルフィード様がおいでになるのだと。

 それを聞いた貴族の一人が、当然の如く尋ねた。

 何のために?

 その質問に、情報通を自任している貴族が口ごもる。何かを答えねば、今後に自分が語る情報の価値が下がり、ひいては収入にまで影響を与えよう。

 結局、何か大事なことを発表されるのだと。

 質問した貴族はもちろん、その周りの貴族達も、無難に逃げたなと言うように舌打ちをしたり、苦々しげな表情を浮かべた。

 そんな騒がしさの中で、玉座の置かれたひな壇の脇、重たげなカーテンから、一人の着飾った若者が姿を現す。

「帝王陛下がお成りです」

 貴族達は一斉に口を閉じ、威儀を正して神妙な表情を作る。その様子を確認した若者は、カーテンを持ち上げて通り道をつくると皇太子を先触れにして、帝王が重々しく姿を現す。

 普段ならば、玉座に不備がないかを確認した皇太子に手を取られて、帝王が玉座に座るのだが、今日は違った。

 玉座を挟んで皇太子と帝王が立って何かを待っている。

 その光景に、先ほどの情報を聞いていた者達の顔が期待に綻んでいた。

 やはりと。

 そして、帝王の出座を告げた若者が、改めて声を張り上げる。慣れていないのか、張った声に緊張がうかがえた。

「シルフィード様、お成りでございます」

 再び持ち上げられたカーテンから、シルが姿を現す。服装は普段のまま薄衣。特に変わりなどないのだが、やはり背中の羽が大精霊である威厳を作り上げていた。光沢を帯び、虹色に変化する、光輪のごとき薄い翼がゆっくりと動いている。

 しずしずと玉座の後方に用意された椅子へと向かって歩いて行く。

 この場に、ブルーやアキラがいたならば、間違いなく吹き出すような光景だったが、帝国の貴族達はもちろん、帝王や皇太子までもがその姿に釘付けになっていた。

 その時若者が、手でしきりに合図を送る。それに気づいた貴族達が慌てて膝を床につき、頭を垂れ始めた。シルに見とれてしまい、拝跪する事を忘れていたのだ。

 帝王が一歩前に出て頭を下げる。それに頷くシルに帝王は手を差し出して、椅子までのエスコートを行った。

 自らの椅子にたどり着いたシルが、絨毯を挟んで拝跪する貴族達を一瞥してから椅子に座った。さらりと薄衣の流れる音が聞こえるほどの静寂の中、シルが足を組み、背もたれに身体を預ける。

 シルの着座を確認して、帝王は玉座に腰掛けた。皇太子はその脇にて起立しているが、背をシルに向けたままであることを遠慮してか、半身になっていた。

 当然、普段であれば帝王の言葉に応じて貴族達は立ち上がるのだが、今のこの場は前例のない状況だ。地位としては間違いなくシルが最上位であるが、為政者としては帝王が最上位となるのだ。

 シルはいわば、皆が崇拝する像に近い存在だ。現世に影響を与えることはなかったのだ。

 だから、貴族達は帝王の言葉を待った。故に驚いた。

「皆、面を上げよ」

 その言葉はシルから発せられた。戸惑う貴族達は、いつもと違い、ばらばらに頭を上げて立ち上がっていく。必死に今の状況について考えを巡らせつつ。

 全員が立ち上がり、静寂が戻るのを待っていたシルが、改めて居並ぶ貴族達を見回した。

 神妙な面持ちもあれば、戸惑う表情を浮かべている者もいた。もっとも多いのは困惑であろうか。

 政治とは無関係で、人前には出てこない。質素を旨とし、華美を嫌う。しかし、帝室を筆頭として、国中からの尊敬を受け、信奉されている存在。それが突然、表に出てきたのだ。

 しかし、帝王近くに陣取る貴族には、期待した表情を浮かべている者もいた。それを見つけたシルは口元を少し歪めた。

今回は、小話は思いつかなかったので、

なしでごさいます。

精進いたします。


次回、明日中の投稿になります。

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