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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第1章 天使(エンジェル)
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1-9

誤字脱字、直しつつ始めて行きます。

どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

 とぼとぼと、アキラが追う一行が、まずは向かったのは、予定通りにローダン商会。

 大通りに戻って、街の中心であろう城の方角へと向かう。

 王都とあって、城に近づくに従って、建物が大きく豪華になっていく。

 やがて、大通りの両サイドに、大店とおぼしき商店が並び始めた。大きなガラスを使ったショーウィンドウに商品が飾られるなどしている。

 ツキの説明によれば、ガラスは貴重品らしい。それを惜しげもなく使う、このあたりの店は高級店だ。そのうちの一際大きな一軒へと入っていく。

 恐らくはここがローダン商会なのだろうが、貴族御用達とばかりに絢爛豪華な入り口の装飾、雰囲気に、入って良いのかと戸惑うアキラ。ドレスコードがあるかは分からないが、ブルーとアキラは洗いざらしのシャツとズボン。リーネは水色のミニのワンピース。ツキにいたっては巫女もどきの装束だ。

 アキラの想像でしかないが、明らかに上流階級ではない、金は持ってなさそうな一行だ。

 堂々とした態度のブルー達に比べ、服は帰国時に駆け込んで買い込むユ○クロ、ちょっと贅沢して無印○品がせいぜいのアキラは、おどおどと周囲を見回している。

 広々とした店内には、品物などは僅かにしか置いていない。逆に商談のためのスペースであろうか、ソファー一式が置かれたあたりがゆったりと空間を取られている。

 案の定、若い店員が鋭い靴音とともに、指さしつつも駆け寄ってきた。

「おい、ここをローダン商会と知っての……」

 すべてを言い切ることは出来なかった。

 若い店員以上の速度で駆けてきた、年配の店員に後頭部を殴られたから。

「これはブルー様、いらっしゃいませ。お久しぶりでございます、ツキ様、リーネお嬢様。ご歓迎いたします」

 このクラスの大店の、恐らくは上級の店員が、(うやうや)しく一行をソファーの置かれた商談スペースへと誘った。

「まぁ、そうだろうな」

 世界に三体しか存在しないドラゴンたるブルーとその連れ。

 展開としてはそうなるだろうと思いつつも、アキラはおどおどとしていた。先ほど、レストランで鯉口を切っていた人物とは同じに見えない、小心ぶりであった。

 すぐさま茶が用意され、丁寧な手つきの女性店員によって、菓子と共に配膳された。

 リーネとツキはやっと食後の茶が飲めるというように、すぐさま手をつけるが、ブルーの前には何も置かれていない。

 アキラが首をひねっていると、給仕の女性店員ではなく、先ほどの年配の店員が自ら運んできたジョッキをブルーの前に置いた。

「って、ここでも飲むのか!」

「帰ったら、飲めねえんだ。こういう時に飲んでおくんだよ」

 理解した。

 レストランでの様子からしても、おそらく、ログハウスでの飲酒はツキあたりから禁じられているのだろう。

 全部、すぐ飲んでしまうでしょう、無駄です。とはツキの言葉。

 酔うと見苦しいとか、体に悪いとかではなく、在庫の問題かと。

 そして、いつの間にか用意されている樽。組み木の上に、横倒しに置かれたそれの横には、店員とは明らかに違う服装の女性が、手をかざしていた。

 魔方陣が手と樽の間にあることから、中のエールを冷やし続けているのだろう。この女性、おそらく魔術師を呼びに行くのと、樽の準備に手間取ったから、ブルーのジョッキが後回しになったのか。

 そこまでして、冷たいエールが飲みたいのかと、アキラは呆れる。

 この機会にとばかりに「今日こそ一口」とはリーネ。当然「だめです」とツキ。まぁ、そうだよなとばかりの「俺のぶんが減る」とはブルー。ドラゴンの威厳はどこへいったのか。

 わーわーと場所柄も弁えずに騒ぐ一行を、笑みを浮かべて見ていた店員が口を開いた。

「会頭のローダンがまいりました」

 ソファーの脇にやってきたのは、いかにも大成した青年実業家。タキシードを少し簡単にしたようなスーツを身につけている。

 細身でイケメン。

 そのニコニコ微笑んでいる姿を見れば、女性であれば貴族平民関わらず、黄色い声を上げて群がってくるであろう。

「いらっしゃい、ブルー。ツキとリーネちゃんはお久しぶり」

 挨拶しながら、何故か狭い空間を、左右に振った尻で広げつつ、アキラの隣に座る。空いた椅子があるにも関わらず。

 リーネの迷惑そうな不満顔は、ローダンによって押され、玉突きでリーネに密着したアキラに押されただけではないようだ。

 座るなり、吐息がかかるほど、アキラの横顔に顔を近づけたローダン。両手はアキラの肩にそっと乗せられている。

「初めまして、会頭のローダンです」

「えーと、アキラです」

 どぎまぎしながら、アキラは言葉を返す。どうやらこの人、いわゆるそちらの趣味があるのかと、周囲に助けを求めるように視線を巡らせる。

 ツキは静かにカップを傾けている。リーネはむっーと、頬を膨らませている。

 そしてブルーはにやにや笑っていた。

「心配するな。そいつは女だ」

 二度見するアキラ。

 そんな様子にローダンはにっこり笑った。

「よろしく、坊や」

「いや、坊やって言われても……」

 若返ったといっても、自分が40歳半ばのおじさんである事の認識から逃れられないアキラ。

 そんなアキラにブルーは追撃をくわえる。

「さらに言うと、そいつは精霊だ。アキラより、はるかに年上だ」

 一応は隠してるから、内密にしてやってくれと続けるブルー。

 スーツに隠されていて気づけなかったが、意外と大きなものを押しつけてくるローダンばかりでなく、それに対抗するかのように、リーネ自らも密着してくる。

 両方から、柔らかなものに圧迫される。

 途方に暮れたアキラは天を仰ぐが、何事もないように、ツキが紙切れを取り出した。

「リストです。内容の確認を」

「任せて!坊やのためにも、今日の商談は頑張るから!」

「頑張る必要はありませんが」

 ローダンの異様なテンションに、社交儀礼のように、一応は突っ込むツキだが、あまり気にした様子はない。ブルーはジョッキを呷ぐばかりで、合間ににやにやと笑っている。

 本日はブルー達一行の貸し切り、受けていた約束は、すべてキャンセルするように宣言したローダンは、先ほど一行を出迎えた店員にリストを渡す。

「在庫の確認!なければ、他の店に問い合わせて、すぐに発注!大至急で納品させて。急いで!」

 リストを受け取り、おそらく事務所になっている奥へと駆け込む店員。するとその奥の事務所が大騒ぎとなった気配。

「おいおい、何時になく張り切ってるな」

 いつもとは全然違う対応だと、ブルーがからかうようにローダンに言う。そのローダンは、アキラの腕に抱きつきつつ、肩に頬を寄せてスリスリとしつつ応える。

「それはそうよ。ブルーに張り切ってみせる必要ないもの」

「いや、なんで初対面の俺にそこまで」

 数人が暮らすために必要な物資の購入。小商いにそこまでする必要があるのかと、商社勤めであったアキラの疑問に、ふと真顔に戻ったローダン。じっとアキラの目を見つめる。

「初対面だからこそ。初めてだからこそよ」

 男装の麗人からの言葉に、アキラは何故か柔らかくも包み込まれるような優しさを感じた。心穏やかになるような雰囲気。言葉を返そうと、口を開いたアキラの唇に、ローダンの指が添えられる。

「商談を始めましょう」

 それを合図にしたかのように、見本が並べ始められた。

 アキラを中心にして、ローダンとは逆のサイドでは、リーネがむーむーと頬を膨らませ続けていた。


次回、明日の午前中に投稿予定です。

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