4-14
引き続き、
第4章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
自分の感覚が命じるままに従い、半身を返して大太刀を振るった。すると、そこにはリーネが張ったはずのシールがなく、刃で触手を受け止めることになる。刃を斜めにして受けた力を逸らしつつ、後ろを見るとリーネが戸惑ったような表情を浮かべていた。
呆然と立ち尽くすリーネを見逃すはずもなく、二本目の触手がリーネを叩こうと振り上げられており、更には三角の頭の先端、つまりは光線の発射口がリーネに向けられようとしていた。
不味い!
アキラは間に合えとばかりに、リーネに向かって駆け始める。
三歩、いや二歩あれば間に合う。リーネに向かってアキラは最後の一歩を踏み込み、リーネの身体へと飛び込んで。そのアキラの顔面その前を触手が通過していく。
まるでコマ送りの映画のようだ。かたかたと映写機の音まで聞こえてきそうな気持ちになる。
触手は正確にリーネの頭に向かって叩きつけられ、砂煙があたりを覆った。
絶望の中で、アキラは大太刀を振るい、触手を切り飛ばそうとしたとき、砂煙の中がすかし見えた。
そこには白いワンピースを翻す、ツキが腕を突き上げて仁王立つ姿があった。
手は叩きつけられた触手が握られていた。しかも、触手はその手から逃れようとうねっていたが、ぴくりともツキの手からは逃れる事が出来ない。
更には光線が放たれるが、それをツキは残った腕の手の平で受け止めはじき返す。
「すべての精霊が姿を消しました」
ツキの言葉に、リーネがなぜ無力化したのか知るアキラだが、それ以上にツキは何者なのかと思う。だが、次の瞬間、アキラの手の中にある大太刀の柄が凜と響いた。
その瞬間、アキラはすべてを悟った。
「ツキ、手伝え!」
大太刀が光りを放つ。いや、光で爆発した。
『さて、我が主。まいりましょうか』
アキラの頭の中にはツキの姿が浮かび、声が響いた。
恐らく、かろうじてアキラ達が戦う姿が見える距離にて、マントとフードに身を包んだ者が物陰にいた。
今見たものを信じられないとばかりに、首を左右にしきりと振り続けている。
「……魔力、いや精霊がすべて姿を消した。いや、それより、今の現象はなんだ。人の女が消えた。どこへ?」
一体自分は何を見ているのだろうと。
「疑似生物の攻撃を人が手で受け止める……」
常識では考えられない。魔術かと思うが、精霊の姿がすべて消えているいま、それは不可能。では、自身の魔力を利用してのものか。獣人ならばあり得るかも知れないが、触手ばかりでなく光線、レーザーまで手の平で弾いて見せたのだ。
光速で飛来するものを、目視で見切ったというのか。
いや、それは最初に剣を振るっていた男も同じ。自身で防いでいなかったが、明らかにレーザーを見切っていた。
「人の姿をした獣人?だが、どこに姿を隠した」
そして、爆発するように輝いた剣は何を意味する。
「何が起きているんだ」
想像を遙かに超えた出来事。しかし、ふと感じたものにその者は素早く身を翻してその場を離れていった。
大太刀をだらりと垂らすアキラ。後方の地面には、ツキが触手を受け止めたときの衝撃波で気を失っているリーネがいた。それをかばうようにアキラは立っている。
残った三本足の頭の先端ばかりか、触手の生えているあたりまで光りを放ち始める。
光速の線条が幾つも三本足から放たれる。
端からみれば、アキラの腕が一瞬消えたかに見えただろう。腕が肩の先から揺らいだように消え去り、次の瞬間にはアキラを穿つはずだった線条が跳ね返るようにして三本足へと打ち込まれた。放たれた数と等しい数が弾かれ、自分で放った光線で自分を穿つ結果となった。
爆炎に包まれる三本足。身もだえするように、身体を振っているが、その間にアキラの姿が消えた。消えたように見えた。
蜃気楼のごとく、全身が揺らいだかと思うと、次の瞬間には、三本足の足をすべて斬り裂いていた。ぐらりと未だ爆炎に包まれている三角の頭が揺れて崩れ落ちてくるが、それは道半ばまでのこと。
地に落ちた三角の頭は四分割にされていた。つまり、二度斬ったのだ。
人は姿が消えるほどの速度で動くようには出来ていない。もしも、実現したとなると、肉は爆ぜ、骨は細々と粉砕され、内蔵は破裂しているだろう。
だが、爆発を繰り返し、燃えていないところからゲル化していく三本足を背にして、リーネへと歩み寄っていくアキラは、人であろうか、何者であろうか。
『お見事です』
アキラの頭の中で、ツキが微笑み、頭を下げていた。
「ツキの手助けがあってこそだよ」
アキラは意図して動いた訳ではない。ただ、身体から湧き上がる何かに命ざれるがままに動き、そして斬っただけのこと。自分の技能ではないと感じていた。
リーネの側にやって来たアキラは、その顔を覗き込む。
どうやら意識を失っているだけで、身体に異常はないようだ。
「ツキは、この大太刀のツクモガミなのか?」
『厳密に言うと違います。私は精霊ではなく、大太刀そのものなのです』
だから、人の形になってしまうと、人であれ、精霊であれ周囲は人と認識する事になるのだと。また、精霊ではないため羽も持たないのだと。
「よく分かんないのだが」
「そうですね、また機会があれば説明します」
いつの間にか、ツキが人の形に戻っていた。大太刀は納刀してアキラの腰に佩いたままだ。
「それじゃ、ここにある大太刀はなんだ?」
「二重存在ってわかります?」
「ごめん、今度時間作ります」
アキラの言葉に、ころころとツキが笑った。
「では、改めて申します。私は月の精霊シルバーが打った大太刀です。シルバーからこぼれ落ちたから、ツキノナミダなの」
ペノンズから聞いたことがあった。鍛冶師は月の精霊シルバーを信奉すると。それはシルバーという精霊は鍛冶を行う精霊であるからだと。アキラの感覚からすると、ツキは神が打った神鍛の剣というべき存在なのだ。
リーネがまだ気を失っていることを確認したアキラは、ツキの耳に口を近づけ耳打ちをする。
「リーネは知っているのか」
「あなたよりも」
なるほどとアキラは頷いた。だが、ツキは出来るだけ、ツキの正体についてはリーネの前ではしないようにと、小声で頼むのだった。
「訳ありか」
「その通りです」
分かったとアキラは頷くのだった。
そこまで話したところで、リーネの目が開き始めた。
ぱっちりと開いた目でツキを見た後、ツキの胸へと飛び込んだ。
「ありがとうツキ!ホントにもう駄目だと思った」
どうやら触手をツキが受け止めたのは見ていたようだが、その時の衝撃波で頭を揺さぶられて気絶してしまい、その後どうなったのか知らずにいたのだ。
改めて、抱きついてくるリーネの身体のあちらこちらを触って、ツキは怪我がないかを確かめ、大丈夫だとアキラに頷いた。
よろめきながらも立ち上がったリーネを、転ばないようにツキは腕をとった。
二体目の爆炎を見て、ライラ達が戻ってくるのが見えた。ゲルのようにどろどろに溶けて燃える三本足に、一体何があったのかとアキラに視線で問いかけてくるが、アキラははそれに両手を広げ、首を傾げて答える。
この場で起きたことは話すつもりはなかった。
ただ、ブルーだけは分かっているのか、ツキの足をよくやったとばかりに前足で叩いていた。
この場に三本足が現れた事によって、話しが繋がったとアキラは考える。水晶を囲んでいたサソリ型、ログハウスを破壊した三本足、人狼や人狐、人虎を裏から煽動して水晶を奪おうとしていた賢者、これらはすべて元は一つの事に繋がっている。
水晶を手に入れようと、躍起になっている存在がいるのだ。
それが組織であるのか、個人であるのかは断定は出来ないが、三本足のような存在を操るとなると、相当なものであると考えられるのだ。
ブルーの背にある水晶に視線を向けたアキラは、これが奪われてはレインを戻してやることが出来ない。
アキラは気を引き締める。
ただ、一つ気になるのは、なぜ今回精霊達は姿を突然消したのか。アキラはツキとリーネに尋ねるが原因が分からないと答えが返ってきた。もっとも精霊と相性が良いリーネの感覚を聞くと、根こそぎ精霊を奪われたようなものだったというのだ。
この点、魔術を封じられることになり、著しく戦力が削られることから注意が必要だと、リーネには話しておくことにした。
そして、いまも精霊はこの場にもどっていない。いや、僅かに数えるほどだが戻ってきてはいるようだ。
洞窟前に人狼姉妹も含めて全員が集まり、中を伺うように覗き込むのだが、こういった時に役立つ、遠見や気配察知の魔術の効きが弱い。スノウはそう困っている様子ではないが、それは普段から呼びかけに応える精霊が少ないからであり、大量の精霊に呼びかけて魔術を発動していたリーネにとっては違和感が募る。
それよりもとアキラがスノウの顔を見る。
「体力は持ちそうか?」
「ご心配かけて申し訳ありません。大丈夫ですし、万が一の時は姉さんにおぶって貰います」
少しおどけて言うスノウに、ライラが真剣な顔で頷き返す。真面目な奴、だがそれが裏目に出ないといいがとアキラは心の片隅で思う。
幼女もどき:「ジェ○イだ、ジェ○イだよ!」
社畜男:「May the Force be with you」
わんわん:「Remember, the Force will be with you, always」
大太刀:「いえ、ただの社畜と犬です」
No! Try not. Do. Or do not. There is no try.
次回、明日中の投稿になります。
申し訳ございません。
ツキの名前を間違えましたので修正しました。




